由紀と史のデート?(8)
由紀のスマホで、母美智子とルクレツィアが話しはじめた。
美智子はまず謝った。
「私、由紀と史の母、美智子と申します」
「本当に申し訳ありません、子供たちがご迷惑をおかけしたようで」
ルクレツィアは、笑顔で
「いえいえ、史君にはかつて素晴らしい演奏を披露していただいて、本当に感激いたしました、将来的には我がフィレンツェにもとのご希望の様子、こちらから是非にでもご招待をいたします」
「それから、お嬢様の由紀様、なかなか素敵な女性、一目みて、将来有望と察しました、由紀様もフィレンツェに招待したいと思っております」
そこまで言って、ルクレツィアは少し声を低くした。
「それから、例の懐石料理店につきましては、史君と由紀お嬢様へのひどい対応、それから、私たちについても隠れた場所で人種差別的な暴言、とても許しがたいので、キャンセル、そして大旦那様の名前を出してしまいました」
「余計だったでしょうか」
少し不安な様子。
美智子も、声を少し低くした。
「いえ、ご心配にはあたりません」
「隠してはおりませんので、それより何より、日本の料理人の端くれとして、私もルクレツィア様たちに申し訳なくて」
「そんなひどい料理店があるとは、申し訳ありません」
母美智子とルクレツィアの会話が続く中、史は大旦那に電話をかけた。
史
「すみません、銀座の懐石料理店で、ちょっとしたトラブルがあって」
大旦那
「いったい、それは何だい?」
史が、かいつまんで端的に内容を話すと、大旦那はかなりご立腹の様子。
「それは、許せん」
「ルクレツィアさんが、史と由紀の祖父で私の名前を出したことではない、そんなことは調べればすぐにわかる、大したことではない」
「ルクレツィアさんに、それは気にしないでいいと言って欲しい」
「それより何より、そんな懐石料理店と支配人は、懐石料理の恥、日本料理界の恥、それから日本人の恥だ」
「私自ら、始末をつける」
史は、母美智子との電話が終わっていたルクレツィアに、大旦那からの話を伝えた。
ルクレツィアは、ホッとした様子。
「ありがたい人ですねえ、人間が大きい」
「一度、お屋敷に伺ってみたいと思います」
史と由紀は、それでニッコリ。
史は、ようやく顔が落ち着いた。
「大旦那は喜ぶと思います」
由紀はさらに一言。
「今日はフィレンツェの美味しいお料理、大旦那のお屋敷では、清さんの懐石かなあ」
車内は、笑いに包まれている。




