華蓮と史のデート(4)
華蓮と史が入った蕎麦屋は、創業明治13年の関東蕎麦の原点とも言える超老舗。
この店からのれん分けをした、浅草や上野の同じ名前の店も、超名店である。
史は、店に入るなりホッとした顔。
「いいなあ、こういう気取りが無くて、新そばの香りがして」
華蓮は、そんな史の顔がまぶしい。
「史君の、そういうスッキリした顔は久しぶりだね、いつも何かに気を使っている感じ」
史は、恥ずかしそうな顔。
「うーん・・・姉貴はいつものことだけど、受験とか新聞部とか音楽とか、忙しかった」
華蓮は、店内に響く注文の声を聞き、
「ほんと、下町の元気がいい掛け声、いいなあ、昔ながらの江戸の元気な声だよ」
史は、うれしそうな顔で
「じゃあ、注文しようかな・・・あっさりとしたのにする、せいろう蕎麦がいい」
華蓮は、少し悩んんだ。
「そうかあ、新そばの香りを消したくないよね、そうなると余計なものはいらないかなあ・・・じゃあ私も同じ」
史は、もう一品頼むらしい。
「珍しいから、そば寿司を食べるかなあ」
華蓮は、史を見つめて
「ねえ、史君、半分欲しい」
史はニッコリ。
「最初から、その予定」
さて、そのせいろう蕎麦と、そば寿司が運ばれてきた。
史
「この緑のそばが好き」
華蓮
「つゆも、濃口だけど、シャキッとなって言いなあ」
史
「そば寿司は、卵焼き、味を含ませた椎茸、干瓢を具にしたそばの海苔巻き」
華蓮
「この干瓢が面白いなあ、甘辛で」
史
「清さんに作ってもらう?」
華蓮
「うーん・・・京都のお屋敷風になりそう、ちょっと違う」
史
「料理人も、いろいろ流儀があるからね」
華蓮
「マスターなら面白がって作るかも」
史
「そういえば、マスターともんじゃ焼き食べた時も、講釈していた」
華蓮
「ああ、やりそうだ、でも食べたいなあ、有名シェフのもんじゃ焼き」
・・・・・・
華蓮と史の会話は、全く途切れない。
食事が終わり、蕎麦屋を出た後も、話が続く。
史は華蓮の顔を見て
「駿河台と靖国通りに交差点近くに、美味しい珈琲出してくれるお店があるよ、今時本格的、といっても三十年以上の店」
華蓮はまたニッコリ。
「え?史君、私を誘ってくれるの?」
史は、そのニッコリに少し焦った。
「いや・・・あの・・・帰り道の途中だし」
「美味しい珈琲飲みたいなあと」
これで、案外シドロモドロになっている。




