里奈の悩み(2)
寝付けない夜が続いているとはいえ、里奈は毎朝、史の家に迎えに行く。
「だって、休んだら、史君が変な気持ちになるかもしれない」
「もう来なくていいよとか」
「悪気がなくても言われたくない」
とにかく、そんな気持ちが強い。
それでも、呼び鈴を押して、史が笑顔で顔を出すと、里奈の心はパッと晴れる。
寝付けなかった辛さも、吹き飛ぶのである。
「おはよう!史君!」
「うん、里奈ちゃん、いつもありがとう」
いつまで、続くのかわからないけれど・・・
里奈は、不安だけれど、とにかく今の時間を楽しもうと思う。
「ねえ、史君、宿題わかった?」
「いいお天気だね」
「ケーキは何が好きなの?」
・・・・・
とにかく、思いつく限りの話を史にすることにした。
そして、史もその几帳面な性格からなのか、丁寧に応えてくる。
それでも、いろんな話の中で、どうしても出来ない話がある。
「足首はどう?」
そんなことを聞いて、
「ああ、大丈夫だよ」
「もう、来なくていいよ」
なんて言われたら、絶対にその場で泣いちゃうと思う。
だから、絶対に一度も口に出していない。
でも、見る限り、史の足の運びはスムーズになっている。
スタスタと歩かれると、思っちゃいけないけれど、寂しさもキュンとなる。
「ねえ、里奈ちゃん」
里奈がそんなことを思っていると、珍しく史から声がかかった。
「え?何?」
里奈は、本当にドキドキしている。
まさか、「足が治ったから・・・なんて絶対に言われたくない」
でも、言われる前から、目がちょっと潤んでいる。
「あのね、里奈ちゃん、右足ね、ほとんど大丈夫になった」
「里奈ちゃん、ありがとう」
しかし、史からの言葉は、「恐れていた言葉」だった。
そして、その次の言葉は、絶対に聞きたくない。
「うん・・・よかったね」
自分でも、声が湿っているし、恥ずかしい。
「あのね、里奈ちゃん、お願いがあるんだけれど」
史は、「お願い」って言ってきた。
となると、「お役御免」ではないのかな?
里奈は、またドキドキしてきてしまった。
「コンサートのチケットもらったの、だから、一緒に行かない?」
史はニッコリと笑っている。
「え・・・マジ?」
里奈は、途端に真っ赤になった。
「それから、治っても、里奈ちゃんが大変じゃない日は、一緒に歩こうよ」
「里奈ちゃんと一緒だと、すごく楽しい」
里奈は、泣き出してしまった。




