表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カフェ・ルミエール  作者: 舞夢
583/760

老落語家とマスター(3)

「それと・・・」

何やらマスターには、含みのある様子。


師匠と弟子がマスターの顔を見ると、マスターは言葉を続けた。

「師匠にお願いしようかなあと思うことがありましてね」

マスターがフッと笑うと、美幸は何か感づいた様子。

美幸も、ニコニコしている。


師匠は、マスターと美幸の笑顔が、理解できない。

「こんな老いぼれ・・・あ・・・それを言っては叱られますなあ」

「でも、そのお願いとやらは何でございましょう?」


マスターは、その笑顔を真顔に変えた。

「実は、ここのカフェ・ルミエールのビルを利用して、様々な文化講座を開講する計画になっているのです」


マスターの真顔に、師匠も真顔になった。

「はぁ・・・それはそれは、素晴らしいことで」

美幸が、サッと差し出した開講パンフレットに見入っている。


マスターは言葉を続けた。

「その講座の中に、師匠にもご参加をいただきたいのです」

「日本の心、人の心を伝える講座ということで」

「本物の芸ということも・・・」


師匠は、腕を組んで考え込む。

しばらく、沈黙が続く。

弟子も、その師匠の真剣な顔に、何も言うことができない。


その師匠がようやく口を開いた。

「ありがたいお話でございますねえ」

「日本の心、人の心、本物の芸など、背中がかゆくなるようでございますよ」

「でもねえ、私も芸人なんですよ」

「芸を頼まれて、断ることは難しい」

師匠は、ここでようやく相好を崩した。

いつもの柔らかな顔に戻った。


マスターは、ホッとした顔。

深く師匠に頭を下げる。


師匠は、柔らかな顔で

「もともと、落語なんですよ」

「頼まれれば、どこでもしゃべります」

「それが、このご立派なビルというのが、ちと恥ずかしいというだけで」

「しかも、文化講座などという、私ども芸人からすれば高嶺の花みたいなねえ」

と、言いながらも、その目に光がある。


マスターは、その師匠の目の光がうれしい。

「ここの文化講座には、本物の芸とか本物の学識を持った人でなければ、呼びません」

「それに師匠のお話が加わるのなら、本当に素晴らしいと思いましてね」


美幸が、三杯目のカクテルを師匠の前に。

「一度、寄席にも伺いたいと思います」


師匠は、本当にうれしそうな顔。

「ありがたいねえ、こんな綺麗なお嬢様に・・・」

「こんな美味しいお酒をいただいて、そのうえ私どものざっかけない寄席にまで」


マスターはそこで、また、たくらんだような笑顔。

「師匠たちが納得していただければ、このビルで寄席もできるんです」

「そうなれば、今ここにいらしてくれているお弟子さんとか、いろんな芸人さんの芸も・・・」


師匠は、ますますうれしそうな顔。

「はぁ・・・美味しいお酒に、美味しい話」

「これじゃあ、もうろくなんて、言っていられませんや」


マスターの誘導で、カフェ・ルミエール文化講座に、落語が加わり、また寄席構想もできつつある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ