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カフェ・ルミエール  作者: 舞夢
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老落語家とマスター(2)

目を丸くする落語家の若い弟子に、マスターが説明をする。

「これは、日本酒とジンのカクテル」

「マテーニに入れるドライベルモットを清酒にかえてみました」


若い弟子は、ますます目を丸くする。

「そうなんですか、それでこんなに・・・」

そして、また口に含んで、目を閉じる。

「・・・これは、美味しい・・・」


マスターが作り方を説明。

「たいして難しいカクテルではないけれど」

「ジンと日本酒の割合は一対一、オリーブや青梅を使う場合もあります」


師匠は、目を閉じ少しずつ飲んでいる。

「ほんと、ワクワクするほど美味しいのですねえ、これが」


マスターは、フッと笑う。

「そのお顔、若い頃から変わりませんね」


師匠は、頭をかく。

「恥ずかしいことを言わないでくださいよ、マスター」

「もうね、棺桶に半分足を突っ込んでいるんですから」

「そろそろお迎えが来たって、間違いがない歳なんですから」


マスターは、また笑う。

「ああ、それは困りますねえ」

「そんなことを言うんだったら、師匠にもう一杯と思ったんですけれど」

「考えてしまいますねえ」


師匠も笑い出した。

「これで、このマスターはこうね、意地悪なんですよ」

「こうやって、ついついもう一杯飲まされてねえ・・・」

「それも、高座を降りないって約束までさせられてねえ」


マスターは、首を横に振る。

「いやいや、それは師匠がいけないんです」

「ここに来るたびに、もう歳だとか、高座を降りるなんて、わがまま言うんですから、降りられたら私だって、生きる張り合いが無くなりますよ」


師匠は、マスターの言葉で、本当にうれしそうな顔。

「ありがたいねえ、こんな年寄りの爺の話なんぞ、楽しみにしてくれて」

と、またカクテルを口に含む。


マスターは、やさしい顔。

「いやいや、師匠の人情噺が好きなんです」

「芝浜、子別れ、紺屋高尾、文七元結・・・」

「本当に泣かせられました、そして力をどれだけいただいたことやら」


師匠も、やさしい顔。

「ほんと、そこまでほめていただいて、ありがたいことで」


じっとマスターと師匠の話を聞いていた美幸が、そっと二杯目のカクテルを師匠の前に。

「私も、いつか師匠の高座をお聴きしたいと思います」


師匠は、うれしそうな恥ずかしいような顔。

「あらあら、こんなお美しいお嬢様に・・・」

「孫よりお若いかなあ・・・」

「いつでも、いらっしゃい、お待ちしておりますよ」


マスター

「ほんと、その口上も変わりませんねえ」

「でも、こういう若い人に、師匠の人情噺を聴いてもらうのも、大切なことです」

「私からもお願いします」


師匠は、カクテルをまた口に含んだ。

少し目が潤んでいる。


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