史の別居計画(3)
史と母美智子は、大旦那のお屋敷から自宅に戻った。
リビングでは、由紀が不機嫌そうな顔で待っていた。
史は、その顔を察知して、さっさと二階の自分の部屋に入ってしまった。
由紀
「大旦那のお屋敷に行くんだったら、何故私も連れてってくれないの?」
美智子も、そんな由紀にムッと応える。
「そんなこと言っても、奥様と大旦那からの緊急の呼び出しだもの」
由紀も、引かない。
「緊急って何?それぐらいは言ってよ」
美智子は、面倒そうな顔。
「大旦那の挨拶文の原稿の最終チェックと、その他雑談」
なかなか、史が大旦那のお屋敷に今後住むことなどは、言いづらい。
さて、由紀は、ますます機嫌が悪い。
「そんなの史だけで十分だし、何故、お母さんがついていくの?不自然」
美智子は冷静。
「あのさ、嫁だもの、私も一緒にって奥様に言われれば断れない」
「奥様には、本当によくしてもらったし、支えになってもらっているし」
「雑談も大事なの、話をしたいという時に、素直に応じるのも大切」
由紀は、それを言われると、なかなか切り返しづらい。
「ふぅーん・・・でも、私は仲間ハズレ?」
切り返しづらくても、少しひがむ。
美智子は、少々呆れた。
そして反撃を開始した。
「あのさ、由紀はもう女子大生なんだよ?」
「置いてきぼりと留守番ぐらいで、どうして機嫌が悪くなるの?」
「そんな子供だから、掃除も手抜き、料理も味がイマイチ、自分の部屋の整理整頓も中途半端」
「懐石の勉強は進んでいるの?」
「清さんに迷惑をかけるような無様な作法で食べないでね」
「それから、着物ぐらいは自分で着られるようになりなさい」
「いつまで私を頼るの?」
・・・まさに猛反撃。
由紀は、途中からうなだれてしまった。
そして、美智子の反撃のスキをついて、立ち上がり、そのまま二階の自分の部屋に向かう。
階段をのぼる由紀に、母美智子が声をかけた。
「今、史の邪魔しないでね」
「史は大旦那の原稿の最終チェックしているから」
由紀は、美智子に先を読まれていると感じた。
「母さんだと、ラチが明かないし、強い反撃を喰らうから、史をポカリして大旦那のお屋敷の話を聞こうと思ったのに」
それでも、今の由紀は、母の反撃をかいくぐったことで、一息ついてしまっている。
「まあ、いいや、まずは平穏無事さ」
と思って、自分の部屋に入っていく。
その由紀の姿を見ていた美智子
「まあ、煙に巻く作戦が成功したけれど・・・いつかは・・・」
「聞いたら、由紀は怒って泣くだろうなあ・・・」
「私だって泣きそうだもの」
美智子は、複雑な思いに包まれている。




