史と由紀の父、晃の登場(2)
「マスター、それでね、お願いがあるんだけど」
晃は、赤ワインを一口飲み、話しだした。
「はい、何でしょう」
マスターもうれしいのか、赤ワインを口にする。
「うん、今度学会の仲間と、ここを使いたいんだけれど、予約はできるかな」
晃は、慎重な話しぶりである。
「はい、それはありがたいことで・・・」
「私も、ご希望に添えるよう、精一杯努めさせていただきます」
マスターの応えも、定番ながら、心がこもっている。
「源氏物語の学会ですか?」
涼子も、思い出したようだ。
その身を乗り出してきた。
「はい、その中でもテーマを決めて、美味しいお酒を飲みながら、落ち着いてお話をしようかと」
晃は、ふんわりと笑う。
「へえ・・・それは聞くだけで、面白いですねえ」
マスターも、興味が湧いてきたようだ。
「はい、源氏の中でも、微妙な箇所で・・・若菜上なんです」
晃は、相変わらず優しい笑みを浮かべている。
「ほーーー・・・」
涼子は、その目を輝かせた。
「うん、当代一流の源氏研究者たちのお話ですねえ・・・」
マスターも、表情が変わった。
「お金払っても聞きたいくらいですよ」
どうやら、店側の了承は得られたようである。
晃は、少しだけマスターと涼子と雑談をして、帰っていった。
三人の話を離れて聞くことしかできなかった、洋子、奈津美、美幸は、同じように顔を赤くしている。
「だってさ・・・ナイスミドル過ぎ・・・きれいでかっこいい」洋子
「史君もいいけれど・・・お父さんの深みは・・・すごいなあ」奈津美
「うーん・・・不思議な感情だ・・・ドキドキが止まらない」美幸
そんな三人に涼子が一言
「あなたたち・・・その前に、源氏を読んだら?」
「読んだら、あなたたちにも、聞かせてあげる」
マスターはクスクス笑っていたけれど、
「大旦那も呼んでみるかなあ」
「面白がるし、秘蔵の何かを持ってくるかもしれない」
そんなことを、つぶやいている。




