カフェ・ルミエールの広報誌(5)
史は、洋子の経歴については、史の母の美智子から聞いてある程度は知っているようだけど、やはり自分でも聞きたいらしい。
そのため、過去の一つ一つの話になり、取材時間は多くなりそうだ。
それは洋子にとっては「シメシメ、よしよし」だけれど、さすがに時間には制限もあった。
少しだけ話をした段階で、奈津美が出勤してきたのである。
そして奈津美が店内で話をする洋子と史を見るなり、一言。
「あらーーーー!史君の取材ですか?いいなあ!次は私?早くして欲しいなあ」
とにかく、洋子にとっては「本当におジャマ虫」である。
おまけに史は、洋子から視線を外し、奈津美の方を向く。
「はい、このカフェ・ルミエールの広報誌なので、奈津美さんも登場してもらいますので、その時にはよろしくお願いします」
キチンと頭まで下げる。
「そうかあ・・・そうなると・・・」
今度は、奈津美が雅の隣に座ってしまった。
そのうえ、わりと「ピッタリ気味」に座る。
「どうせ、PCで作るんだからさ」
奈津美には、何か考えがあるようだ。
「え?PCだから何?」
洋子は、奈津美の意図が見えない。
それより、なるべく奈津美には席を外してもらって、「キッチンにさっさと行ってほしい」と思っている。
何より「史へのピッタリ座り」が気に入らない。
「もしかすると、ホームページとか?」
ところが、史は奈津美の考えをすぐにわかったらしい。
奈津美も、ニッコリである。
「さっすが!史君!若いから反応が早い!」
奈津美は、ポンと史の肩を叩いたりする。
「う?当てこすり?弟子のくせに!」
洋子は、本当に気に入らないものの、「大人だし」と思い、態度には出さない。
「一度、マスターと涼子さんにも、相談してみます」
「それから、企画書みたいなのを、僕が作ります」
「叩き台が必要なので」
洋子と奈津美の想いはともかく、史は全く冷静。
その後は具体的な話は、マスターの意見と、史の企画書待ちになった。
姉の由紀が迎えに来たこともあり、史は由紀と、洋子のサヴァランケーキと奈津美の紅茶を飲み、帰っていった。
二人がいなくなった後、奈津美は洋子の脇をちょっとつついた。
「洋子さんも、史君フェロモンに感染したんでしょ」
「・・・うん・・・お花畑フェロモンだ」
洋子の顔は、また赤くなっている。




