木村親方と史(2)
史は、階段を恥ずかしそうに降りてきた。
そして、木村親方の顔を見て、キチンとお辞儀をする。
木村親方は、やさしい笑顔。
「どうだい?史君、大変だったね」
史は、顔がまだ赤い。
「はい、親方まで、ご心配をおかけしまして」
「昨日はどうにもなりませんでしたが、少し寝て回復しました」
美智子が、冷やしたローズヒップティーをテーブルに。
親方はニッコリ。
「はぁ・・・さすが美智子さんですね、これはスッキリとして香りが高い」
「すごく上品なお味です」
美智子は
「いえいえ、親方に褒められると恥ずかしいです」
と言いながら、史の顔を見る。
史は、素直に飲んでいる。
「うん、のどが渇いていたから、美味しい」
そんな程度の感想なので、美智子は少々ガッカリしている。
その史が、木村親方に
「親方、お祭りの新作って、いろいろ考えてはいるんですが」
と言いかけると、親方も美智子も、史の顔を見る。
史は、ローズヒップティーをもう一口飲んで
「えっと、奇をてらいたくなくて、普通の味で食べやすいもの」
「特に夏って、みんな身体が疲れているので、それを意識して」
「ゼリーとか、寒天とか、アイスとか、いろいろあるんだけど」
美智子が、史に少し焦れた。
「史、それじゃあわからないって、もう少し明確には?」
史は真顔、少し考えて
「皮を工夫して、餡も工夫した感じ」
「サラッとした軽めの薯蕷饅頭かなあ」
「とにかく、どっしり系にはしないような、感じ」
「甘味を抑えた餡の軽い口どけとか、皮も抵抗なく口に入るような・・・」
と、ようやく口にした。
木村親方は、
「ふむ」
と、考え込む。
美智子は首を傾げた。
「でもさ、若い子には地味過ぎない?」
「シンプル過ぎて、おしゃれって感じがしない」
考え込んでいた木村親方が、口を開いた。
「史君、それ、面白そう」
「軽めのお饅頭だね、うちのはどっしり系にしたのを伝統で作っているけれど」
「身体と胃が疲れた夏にはいいかもしれない」
そして、うれしそうな顔で、そのまま史の手を握った。
史はうれしそうな顔。
「もう少し回復したら、また伺います」
美智子は、
「やれやれ、また仕事を増やしている」
と呆れ顔になっている。




