史が熱中症でダウン(3)
里奈は一旦涙を拭いて、話を続けた。
「そのうえ、監督は史君まで責めたらしいんです」
「応援の声が足りなかったのも、負けた重要な原因だって」
「それも、すっごく大きな声で怒鳴って」
これには由紀も呆れた、呆れを通り越して怒り始めた。
「史が何だっていうの?応援していたの史だけじゃないのに」
「そうなると、史が応援者を代表して怒られたの?」
母美智子は、相当難しい顔になっている。
里奈は、また話を続けた。
「うちの学園のピッチャーだって、120球を超えて、暑さもあって疲れていて」
「コントロールも甘くなってきていたのに、監督は変えようとしない」
「それで結局、相手の主軸バッターには、フォアボールを連発して塁が埋まって、最後は下位のバッターに逆転サヨナラホームランを打たれて・・・負けたそうです」
「相手のチームは、途中でピッチャーをサッと変えてきて、途端にうちの学園は打てなくなったらしいんですが」
由紀は、また嫌な顔。
「それじゃあ、こっちの作戦ミスだって・・・」
「まったく・・・あの監督、とにかく頑固一徹、体力と根性自慢だからなあ・・・」
「それに応じない生徒は、コテンパンにどやしつける」
「顔が青白くて華奢な史なんて、腹いせにする、いいエジキだったんだ」
美智子が首を傾げ、口を開いた。
「まあ、野球のことはよくわからないけれどね」
「どうして野球部だけ、みんなで応援しないといけないのかなあ」
「他にも運動部あるしさ、里奈ちゃんの柔道部だってあるし、陸上だってサッカーだってあるでしょ、水泳もあるか」
「そういうのに、他の部が応援に駆り出されるってないのにね」
さて、史の部屋で、三人がそんな話をしていると、また玄関のチャイムが鳴った。
そしてインタフォンから、
「京極華蓮です、打ち合わせに伺いました」
美智子の顔が「ハッ」となった。
どうやら、京極華蓮との打ち合わせがあったようだ。
そして、史の部屋を即座に出て
「はーい!ただいま!」
と、バタバタと階段を降りていく。
由紀が里奈に声をかけた。
「そうだね、里奈ちゃんも、華蓮ちゃんに会っておいたほうがいいかなあ」
「とにかく、楽しい人、頼れる人だよ」
里奈は
「え?」
と不思議そうな顔になっている。




