華蓮と由紀と史(5)
華蓮が歌いたかった曲は「君をのせて」だった。
史も、全く自然にイントロを弾きだし、華蓮もすんなりと歌いだす。
それには、母美智子はうっとり。
「華蓮ちゃん、きれいなソプラノだねえ、心に響くなあ」
由紀は、焦った。
「歌が上手いって知っていたけれど・・・マジで上手」
「それに何?あの史のうれしそうな顔、私の歌の伴奏の時より、いい顔している」
「・・・ったく気に入らない、私がお姉さんなのに」
「君をのせて」が終わった。
美智子は、拍手。
由紀も、歌そのものは、良かったので拍手。
華蓮と史は、ニコニコしてハイタッチしている。
華蓮は史に
「幸せ、史君のピアノで歌うなんて」
史も、ニコニコ。
「さすが華蓮ちゃんだね、歌い方が自然できれい、こういう歌い方が好き」
ハイタッチの後、握手までしている。
由紀は、そんな二人を見て、「ったく・・・」と思うけれど、さすがに口には出せない。
そして、実は自分も歌いたいとは思うけれど、史にピアノを頼みづらい。
何しろ、さっきまで、「文句を言ってポカリ寸前」だったのだから。
万が一、史に「姉貴の伴奏?やだ、そんなの」と言われでもしたら、華蓮と母の前で、全く立つ瀬がなくなってしまうと思う。
さて、華蓮、史、美智子は、そんな由紀にはおかまいなし。
にこやかに会話が続く。
華蓮
「史君も、ほぼ推薦内定なんだよね」
史は、コクリと頷く。
「うん、音大の学長からは、そう言われているよ、でもさ、学力も身につけておきたいの、推薦の人が入試を経てきた人に負けるわけにはいかない」
華蓮
「そういうところが、史君らしいね、あくまでもキチンキチンとね」
美智子
「まあ、それがこの子の性格なの、時々はもっと弾けてもいいかなあと思うけれど、夏に海に行くとかさ」
華蓮は、それでニッコリ。
「そうだねえ、史君と海もいいねえ、加奈子ちゃんと愛華ちゃんが、夏休みに都内に出てきたら、行こうか」
史も、そこで考える。
珍しく、答えもスンナリだった。
「そうだね、江の島とか、行ってみたい」
・・・・・・・
そんな楽しい会話が続くけれど、由紀はなかなか入り込めない。
「なんか、寂しいなあ、史に怒り過ぎたかなあ」
「史って、冷たいのかな、私に」
「少しは私に話を振ってよ」
「華蓮ちゃんと史って、いつもそう、私をナイガシロにする、子供の頃から」
由紀の気持ちは、少しずつ沈んでいく。




