史の新しい難題 真由(7)
翌朝になった。
史は、いつもの通り、里奈と仲良く登校していく。
その姿を見送った由紀は、少々不安。
「きのうは思いっきり文句いって叱ってやりこめたけれど」
「真由のことだ、今日はケロッとして、また何かしかけてくるかもしれない」
母美智子も、そんな感じ。
「ねえ、里奈ちゃんにも迷惑かけると、悪いよね」
「何かなければいいけれど」
さて、史と里奈は電車に乗り込むと、里奈が史に話しかけてきた。
里奈が史の顔を見て
「ねえ、史君、今日の放課後、予定はあるの?」
史は、素直に
「えっと、今日は音楽部にちょっと寄って帰るけれど」
里奈は、うんと頷き
「あのね、カフェ・ルミエールに行かない?」
「何人かで行くけれど」
史は、全く異存はない。
「ああ、いいよ、洋子さんの新作もあるしさ」
里奈は、少し笑ったけれど、何か思惑があるようす。
「あのね、昨日ね、ちょっといろいろあったの」
史は、里奈の顔を見た。
里奈は
「あのね、史君、知っているかな、合唱部の真由って女の子」
史は、少し驚いた。
何より、里奈からその名前が出てくることが、信じられない。
それでも、言えることだけは言おうと思った。
「うん、昨日、姉貴のところに電話があったみたい、僕と話をしたいって、それでね、姉貴がかなり僕が勉強中とかって言って、叱ったんだ」
里奈は、うんうんと頷き
「ああ、それでかあ・・・全く・・・」
史は、その里奈が気になった。
「里奈ちゃんのところにも、何かあったの?」
里奈は、首を横に振る。
「ああ、違うの、真由って子がね、私の柔道部の後輩に大泣きになって電話したんだって、なんでも同級生らしいけれど」
「真由が言うのには、史君のお姉さんにいじめられたとか、人格を否定されるような暴言を吐かれたとか、とにかく一時間も大泣きの電話だって」
里奈の顔が難しくなった。
「私は、後輩からその話を聞いたけれど」
「後輩が心配していたのは、真由って子は、自分の気が済むまで文句を言い続けるタイプ」
「だから、私の後輩だけじゃなくて、あちこちに、泣きついているかも知れない」
史の顔も、難しくなった。
そして、里奈に謝った。
「ごめんね、里奈ちゃん、迷惑かけて」
里奈は、首を横に振る。
「何言っているの?史君、何も悪いことしていないよ」
「おかしなのは、真由って子」
そして、ギュッと史の手を握った。
「私にまかせて、史君は何もしないで、というか何もしないほうがいい」
史は驚くけれど、里奈はニッコリと笑っている。




