由紀と清さん(5)
カフェ・ルミエールでの話は、ほぼ料理の話と新店舗の構想のような話。
ほとんど考えていなかった由紀は、とても口を挟める状態ではない。
少しずつ、欲求不満が高まるけれど、せっかく久しぶりに逢えた「憧れの清さん」の前で、変な顔を見せたくない。
それでも、清の真正面に座らせてもらったので、その顔を見ながら、いろいろと思う。
「うふ・・・キリッとして、かっこいい」
「史なんかの、少女漫画みたいな顔じゃない」
「なんか、男って感じがするなあ」
「小さい頃から、やさしかったなあ」
「京都のお屋敷に行くと、追いかけちゃった」
「加奈子ちゃんと、取り合いしたこともあった」
「料理の手が空いた時に、お菓子作ってくれて美味しかった」
「和三盆の干菓子とか、お饅頭とか、不思議なゼリーとか」
「私だけに作ってくれないかなあ」
「絶対に美味しいって言うから」
「史は、食べてなんだかんだと、講釈するからうるさい」
そこまで思って、史の顔を横目で見る。
史は、いつもの冷静フェイス。
由紀は、それが気に入らない。
「どうせ、みんなの話が途切れた時に、なんか言うつもりでしょ?」
「全く、偉そうに、確かに味覚はいいけどさ」
「ただ、ここの大人たちが、史の意見を聞いちゃうのが悪い」
「清さんに頼んで、史をギャフンと言わせちゃおうかなあ」
それと、由紀には、もう一つ気になることがあった。
それは、「憧れの清さん」と、洋子の話の波長が、妙に合っていること。
「う・・・なんか、洋子さん、最初は構えていたけれど、途中からニコニコと清さんを見ているし・・・やばいなあ」
「清さんも清さんだ、そんなやさしい顔を洋子さんに見せないで」
「でも、二人の雰囲気が、しっくりだなあ」
由紀が、少々不安になっていると、清が突然、声をかけてきた。
「ところで、由紀お嬢様」
いつもの、やさしい声。
由紀は、いきなりなので
「あ!はい!」
また、声が裏返った。
清は、顔もやさしい。
「もし、店ができたら、お手伝いしていただけます?」
「私の立場で、お嬢様に、そんなことを言うのも、なんですけれど」
由紀は、ビクッとした。
しかし、ためらわなかった。
「はい、いろいろ教えてください」
「ご迷惑おかけするかもしれませんが」
と、キチンと頭を下げる。
大旦那もうれしそうな顔。
「由紀ちゃん、ありがとうね、日本料理の伝統を受け継ぐためだ」
「若いお友達にも宣伝してくれ」
マスターも一言。
「清さんの、料理の仕方とか、見ているだけで、すごく勉強になる」
「由紀ちゃんも、今後のために、見ていくといい」
そこまでは良かった。
洋子も、一言あった。
「私も、時々勉強させていただきます」
その言葉で、清はニッコリと笑うし、由紀はまた焦っている。




