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カフェ・ルミエール  作者: 舞夢
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由紀と清さん(4)

大旦那が、難しい顔になった。

「何しろ、おしたじしても」と言い、少し考える。

ただ、その、おしたじに反応したのは、マスターと清、史だけ。

洋子と由紀は、キョトン状態。

史が、そんな洋子と由紀に、小声で

「京都では、昔、醤油のことを、おしたじって言ったの」

「下地と書くの」

洋子は、ハッとわかった顔、ただ、由紀はまだよくわからない様子。


マスターは、そんな三人を見て、ククッと笑う。

そして「しょうがねえなあ」と言いながら、説明をはじめる。

「まあ、史君が言葉だけでも知っているのは、感心だけどさ」

「この下地って言い方が、京料理の基本になるのさ」

「つまりね、京は薄味だろう、ここらへんの関東と違って」


史は、マスターのそこまでの言葉で、言いたいことが、わかったらしい。

「つまり、素材の違いですよね」

「京都の素材は、火山灰土ではない肥沃な場所なので、味が濃い野草とか野菜が育つ」

「だから、砂糖や甘味を加えない淡口醤油だけで煮炊きができる」

史がそんなことを言うと、大旦那、マスター、清、洋子も、フンフンと頷く。

由紀だけは、少し気に入らない様子。

「また史が、私の考えていないことを言い出した」と思っている。


大旦那が話を続けた。

「史君の言うとおり、京料理は、関西の素材の味がいいので、邪魔をしない料理法、素材の持ち味を引き立てるように下地をしっかりつける調味が、京料理の基本になった」


清も、おもむろに話しはじめた。

「大根でも、竹の子でも、茄子でも、軟らかく薄味に煮て、そのまま一夜を過ごさせます」

「そして、次の日に、温めていただくと、その薄味が全体にむらなく浸透して、素材の持ち味を殺すこともなく、美味しい」

「醤油の量は少なくてすむ、これが、《《おしたじ》》ということになります」


マスターが、また話しはじめた。

「万葉の時代に、醤油のもとになる、ひしおがあったようでさ」

「つまり発酵塩蔵食品さ」

「それが、穀醤、肉醤、草醤の三つの流れ」

「穀醤はその後の醤油とか味噌、肉醤は塩辛とかショッツル、草醤は不思議な感じがするけれど、後の清酒になったそうだ」


大旦那は、マスターの話に少し笑う。

「なかなか勉強しているけれど、文武天皇が大宝律令を制定した当時に、朝廷に醤院というものがあったらしい、醸造食品の統制を司ったのかな」

「正倉院文書にも、醤とか豆醤とか、いろんな醤の名前が残っているという話を聞いたことがある」


今度は、清が話し出す。

「今でも、味噌の液体化とも言える溜まり醤油、山口の甘露醤油、白醤油などがあるけれど、要するに醤油の味が濃いと、本来わき役の醤油が主役になってしまいますね」


結局、カフェ・ルミエールでの話は、醤油と料理についてが中心になってしまった。

史はともかく、由紀は、なかなかついていけず、ボンヤリとなっている。

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