史と洋子の不思議なデート(2)
史は、予定通り、午後6時にカフェ・ルミエール前に着くと、洋子が待っていた。
洋子は、深いワインレッドのスーツ。
史は、「わ!洋子さん、きれい」と、少し見とれてしまった。
洋子も、そんな史の雰囲気がわかったらしい。
「それは私だって、たまにはオシャレしますって、わあ、うれしいなあ、史君とデートなんて・・・少し違うけれど」
と、史にクスッと笑う。
二人がそんな状態、ほぼ1分も待たないで、タクシーが店の前に横づけとなった。
タクシーに乗り込むと、洋子が史に
「少し緊張する?」
史は
「いえ、あまりしません、偉い人ばかりが来るというのはわかるけれど」
洋子は、クスッと笑う。
「だって、史君は、その偉い人に招待されたんだから」
史は、洋子に尋ねた。
「洋子さんは、かなりの知りあいなんですか?」
洋子は、ウンと頷き
「そうねえ、パリ留学中に、フィレンツェに旅行した時以来かなあ」
「彼女は、とにかく元気な人で、ずっと付き合っているの」
史は、面白そうな顔。
「それにしても、不思議な御縁ですね、また日本で再会なんて」
洋子も少し笑う。
「まさかイタリアから追っかけられるなんてね」
史は、少し真顔に戻った。
「僕の演奏を聞いてくれたのは、年末ですよね、それを覚えていてくれたんだ」
洋子は、史の手を握った。
「とにかくね、彼女が言うのに、魔法の手に見えたって」
「私が史君のことをよく知っているって言ったら、絶対連れてきてって、ずーっと言っていたから」
史は、首を傾げた。
「魔法の手って言われても、僕はわからないなあ」
「それよりも・・・」
と言って、少し言葉を選んでいる。
洋子は、史の次の言葉が気になった。
「それよりって?」
ついつい、催促をする。
史は、恥ずかしそうな顔。
「僕にはケーキを作っている時の、洋子さんの指の動きのほうが魔法です」
「本当に、ドキドキするほど、美しく感じます」
洋子の顔は、途端に真っ赤。
「こらーーー!大人をからかわないの!」
「だいたい、歳も違うんだから、恥ずかしいって!」
声も、裏返り気味。
史は、キョトンとなった。
「え?洋子さん、僕、変なこと言いました?」
洋子は、ますます真っ赤になっている。




