洋子とひとみ(5)
「まあ、すぐにどうなるってもんじゃないけどな」
マスターは、六本木の店のオーナーパテシィエとは連絡がついたらしい。
いつもの、冷静で柔和な顔に戻った。
「それで、ここに来てくれるって?」
涼子は、マスターに尋ねた。
まずは、ここで飲むことが第一、六本木の店とかひとみの話はその次になる。
「ああ、都合がつく休みの日にしたよ、ひとみも一緒ってこと」
「ああ、それから、美智子さんにも会いたいらしいなあ」
マスターと六本木のパテシィエの話には、史の母の美智子も話題にのぼったらしい。
「そうか、そこまでやって、同窓会なんだ」
「それは楽しいなあ」
洋子は、うれしそうな顔になった。
ひとみも、顔が落ち着いてきた。
「そうかあ・・・そうやって、みんなでザックバランに話をしたほうがいいね」
「私も美智子さんに会いたくなった」
そして、頭を下げた。
「ごめんなさい、いろんな心配をかけちゃって」
「でも、こういう時って、仲間があるってうれしいなあ」
「いろいろ考えてくれて」
少し涙ぐんでいる。
洋子が、そんな涙ぐんでいるひとみの肩をポンと、たたいた。
「え?何?洋子さん」
ひとみは、意味がわからないようだ。
「ちょっと待ってて」
「元気を出すには、甘いものが一番なの」
「ケーキもう一つぐらいなら食べられる?」
洋子は、ひとみに尋ねた。
「うん、飲んじゃったけれど、大丈夫だよ」
「何かあるの?」
ひとみは、洋子の顔を見るが、洋子は黙ってキッチンに消えた。
そして、すぐにケーキと紅茶を持ってきた。
「・・・何の変哲もない、苺のショートだよね・・・」
「技巧を誇る洋子さんが・・・」
ひとみは、首を傾げた。
しかし、口にケーキを入れた瞬間、その顔が一変。
「え?何?この生クリーム!ケーキ!苺まで!」
「美味しいなんて、そんな言葉じゃ言い尽くせない!」
結局、一気に食べてしまった。
「解説するよ」
涼子はニコッと笑った。
「生クリームも手作り、フレッシュバター入り、史君が作ったって連絡があったから、さっき史君の家に寄ってきたの」
「苺も、この店に来る前にハウスから買って来たの」
驚くひとみに、洋子が一言。
「こういう新鮮な素材、人の気持ちがしっかり込められた材料でつくるのが、このカフェ・ルミエールの方針だよ」
「技巧は、ちょっと手助けするだけ」
「まあ、何はともあれ、ひとみが元気になってよかった」
「同窓会は無礼講にしような」
「ああ、今から楽しみだ」
マスターがその場を締めた。
ひとみは、本当に元気になって帰っていった。




