洋子とひとみ(4)
「できれば、何とかしてあげたいなあ・・・」
「ひとみちゃんにしろ、六本木の親方にしろ」
マスターは腕を組み、しばらく考えている。
そんなマスターにすまなく思ったのか、ひとみが声をかけた。
「あ、マスター・・・すぐにどうのってことではないから」
「私だって、六本木のあの店に愛着があるし、あそこのパテシィエにも、いろいろ教わりたいこともあるから」
ひとみは、マスターの「考え込み」に、慌てているようだ。
「それもそうだねえ・・・その想いは、私だって一緒だよ」
「六本木にはあのお店があって欲しいもの」
洋子も尊敬するパテシィエの店、困難があっても継続して欲しいようだ。
「私もそこまでは同じさ」
涼子が話し始めた。
「ひとみちゃんだって、私たちに、こうやって心配事を打ち明けに来てくれた」
「本当にうれしいことさ、ありがたいよ、人の縁ってものはね」
涼子は、少し間を置いた。
「最終的には、店のことは、店のオーナーパテシィエが決めることだけど」
そこまで言ってひとみを見た。
「この店としてはね、ひとみちゃんが手伝ってくれると、本当に助かるよ」
「その想いもあったんでしょ?」
「自分から、六本木のお店をやめて、ここで洋子さんとって」
「はい・・・」
ひとみは、難しい顔になる。
「なあ、ひとみ」
マスターがひとみに声をかけた。
「お前にもよくわかっていると思うけどな」
ひとみは、マスターに頷いた。
「この業界ってな、仁義があるんだ」
「こういうことは、ひとみ自身が、今のひとみの親方としっかり話し合わなければならないぞ」
「もちろん、ここでは大歓迎だけどな」
「でもな、俺が六本木にいて、ひとみを仕込んでたとしたら・・・」
マスターの顔が、まっすぐにひとみに向いた。
「はい・・・」
ひとみも、真っ直ぐにマスターの顔を見る。
「俺だったら、何があっても、ひとみを手放さない」
「ああ、自分の手取りを削っても手放さない」
マスターは、厳しい顔になった。
「・・・そんなこと言われても・・・」
ひとみは返答に困ってしまう。
もはや、何をどうしたらいいのかわからないようだ。
「ねえ、ひとみちゃん」
洋子がひとみに声をかけた。
「はい・・・」
ひとみは洋子の顔を見た。
「一度、この店に連れてきて」
「一緒に飲まない?」
「あのパテシィエとみんなで」
洋子は、そう言って、涼子とマスターの顔を見た。
「そうか・・・同窓会か・・・」
涼子は、すぐにわかったらしい。
ニッコリと笑う。
「・・・となると・・・」
マスターは、早速電話をしている。




