佃島へ(1)
マスターは、まっすぐにカフェ・ルミエールには向かわなかった。
「少しドライブでもしようか」
と言って、車を走らせている。
愛華と加奈子は、珍しい東京の風景を見て、キョロキョロしているけれど、由紀は、まだ涙顔のまま下を向いている。
やはり、マスターと加奈子、そして愛華に責められたことが後をひいているようだ。
史は、落ち込みから、少しずつ脱出。
マスターの車の走らせ方や、路線から、行き先を考えている。
車は、首都高をかなり走り、少しずつ大きな川が見えてきた。
史が口を開いた。
「あ・・・隅田川だ・・・いいなあ・・・」
その史の言葉に、加奈子が反応する。
「へえ・・・なんか、スッとするような感じがする」
愛華もうれしそうな顔。
「わーーー!これが隅田川?一度見たかったんや」
由紀も、ようやく顔をあげた。
ハンカチで涙を拭きながら
「ねえ、マスター、ここ、佃島の近く?」
と、マスターに声をかける。
マスターは
「ああ、そうだよ、由紀ちゃん、俺も少し欲しいものがあってさ」
すると、史が反応した。
「あ!僕も欲しいものがある」
加奈子と愛華は、マスターと史の欲しいものがよくわからない。
ただ、由紀はすぐにわかったらしい。
由紀
「そうかあ・・・私も欲しい」
「でもなあ、あれは江戸の味だね、加奈子ちゃんと愛華ちゃんには無理かなあ」
と、口に出すと
史が由紀に続いた。
「あのね、佃島って、名前でわかると思うけれど、佃煮屋さんがあるの」
「それで、僕も佃煮が大好物、噛みしめると力が出る」
マスター
「こんどね、カフェ・ルミエールの夜の部でさ、佃煮を使ったおにぎりを出そうかとね」
「昆布、葉唐辛子、アミ・・・いろいろあるね」
「日本酒には合うんだ、これが」
加奈子の顔が輝いた。
「うち、試食する!関西のとは違うと思うけれど、興味ある!」
愛華も、興味津々、そして
「うーん・・・何かホッとしたら、お腹へってきた」
マスターは、そこで笑った。
そして由紀に
「由紀ちゃん、じゃあ、佃煮屋さんと、もんじゃ焼き屋さんも行こうか!」
と、今度は、明るめの声。
由紀は
「もちろん、ここまで来て、もんじゃ焼きなしでは帰れない」
由紀も、少しずつ、元気が出てきている。




