史・由紀・愛華・加奈子の音大見学(11)
史たちの一行の音大見学は、榊原先生と内田先生に伴われての「音大施設の見学」のみとなった。
大ホール・中ホール・小ホールと、たくさんあるレッスン室。
また、様々な大きさの教室、そして史が一番興味を持つ図書館などを、主に榊原先生に説明を受けた。
さて、由紀としては由紀なりに、いろいろと考える。
「史に演奏なんてさせてはならない」
「とにかく、アッサリ、スンナリと進行させよう」
「愛華ちゃんも加奈子ちゃんも二泊するって言ったけれど、明日は私だけが付き合うかな」
「史なんか、発熱にしてドタキャンさせればいいさ」
ということで、そのことを加奈子に内緒で相談。
加奈子は
「うーん・・・そこまで、神経使わんでもなあ・・・」
「愛華ちゃんも、うちも、史君のピアノ聴きたいしなあ」
「どうして、由紀ちゃんって、史君を仕切りたがるの?」
「さっきの言い方も、あれじゃあ、史君が辛いやない?」
「史君は室内楽をやるって聞いたら、うれしそうやったもの」
「それを由紀ちゃんが、変に気を回して、潰したんや」
「愛華ちゃんかて、そのほうががっかりや」
「それに、明日をドタキャン?」
「そんなの愛華ちゃんが聞いたら、その場で京都へ帰ってしまうと思うんや」
「そのほうが、よほど愛華ちゃんの機嫌を損ねる」
と、浮かない様子。
由紀も、加奈子の意見に戸惑った。
「そう言ってもね、史はアホで無粋なんだ」
「いつでもトラブル・メーカーなの」
「怪我はするし、芸能プロダクションのスカウトに付け回されるし、女どもは寄ってくるしさ」
「とにかく、何事もないほうがいい」
「今日だって、竜との、とんでもないトラブルが起きたでしょ?」
「そういうのも結局、史の不徳の致すところだと思うよ」
と、最後は、史の「不徳」を原因とする。
さて、計三十分ほど歩いた音大施設訪問は、終わりとなった。
史が、案内をしてくれた榊原先生と内田先生に頭を下げた。
「本当に申し訳ありません、朝のトラブルから施設見学まで、お世話していただいて」
由紀も頭を下げる。
「本当に姉としても、頭を下げます、ありがとうございました」
愛華と加奈子も、頭を下げ、音大の校舎を出た。
すると、一台のBMWが目に入った。
少し難しい顔をしていた由紀の顔が、パッと輝いた。
「あ!マスター!」
由紀は、そのBMWに向かって、走り出している。




