史と里奈の鎌倉散歩(4)
里奈は史の腕を「自分から思いっきり」組んでしまった。
史も、最初は少し焦った様子だったけれど、腕を離すような雰囲気はない。
しかし、それでも、ここは円覚寺の境内、そもそもが修行の場になる。
史は
「ねえ、里奈ちゃん、すごくうれしいんだけどさ」
里奈も、史の話したいことは、すぐにわかった。
「そうだよね、ついつい・・・」
と言いながら、それでも腕を離す。
しかし、そのまま史の手をキュッと握ってしまう。
史もまんざらではない様子。
「里奈ちゃんの手って好き」
そんなことを言われて、里奈はまた赤面。
「もー・・・汗かいちゃうって・・・」
腕を組んでいる時より、身体が熱くなっていることを自覚する。
そんな二人は、時宗公の廟で、やはり抹茶を飲もうということになった。
史が
「やはり、こういう露天で抹茶と干菓子っていいね」
里奈も
「ああ、そうだよね、風も気持がいいし、お空も青くてきれい」
「この方が自然だね」
と満足しきりの様子。
抹茶と干菓子を味わった二人は、さらに坂道をのぼり、黄梅院にも足を延ばす。
観音堂の前で手を合わせたり、露天に立つ観音や木彫りの仏像へも手を合わせる。
史
「やはり、落ち着くところだよね」
里奈も
「そうだね、何か別世界って感じ、とにかく頭の上のモヤモヤしたのが、スッと消えている感じ」
二人とも、禅寺ならではの、スッキリとした雰囲気を楽しんでいる。
さて、史が時計を見ると、午前11時を少し過ぎている。
史は、里奈に声をかけた。
「里奈ちゃん、お食事は和食か、それとも何か食べたいものある?」
里奈は、即答だった。
「洋食はどこでもなので、鎌倉に来たら、あの歴史のある和食の名店で」
史も、その名店を即座に理解した。
「ああ、僕もよく知っているお店、和食の教科書のような正統派のお店」
里奈も、ウンウンと頷き
「そうだね、混まない時間に、ここから近いしね」
結局、悩んだり店を探す必要はなかった。
二人は、円覚寺を出て、まっすぐにその名店に向かうことにした。




