愛華の悩みと音大見学(5)
史の返事は、本当に簡単なものだった。
そして、愛華に取って、舞い上がるほどにうれしいものだった。
「うん、わかった、案内します」
「駅まで、お迎えします」
愛華は
「わーーー!うれしい!」
「史君!よろしくね!」
こんな感じ、元気ハツラツ、声が裏返るどころではない。
史は、もう一言あった。
「それじゃあ、カフェ・ルミエールにも愛華ちゃんも加奈子ちゃんも行こうか?」
「それとね、マスターの娘さんがすごく可愛いの、祥子ちゃんって言うんだけど」
ますます、愛華はうれしくなった。
「うん!あそこのケーキも美味しいって加奈子ちゃんが教えてくれたし」
「マスターの顔も見たいし、涼子さんも大好き!赤ちゃんの顔も見たい!」
「わーーー楽しみやーーー」
ということで、本当に幸せに、史との会話を終えた。
ベッドに横たわり、ようやくスマホを手から離した。
「スマホ・・・汗まみれ・・・恥ずかしいな」
「史君、こんな気持わかっとるんやろか」
「でも、まずは一歩も二歩も前進や」
「ああ、どんな服を着て・・・お土産もいろいろ考えないと」
とにかく、いろいろ考えて寝付けない愛華である。
さて、一方の史は、全く普通、愛華のような状態ではない。
由紀が、コンコンとノックして入ってきた。
由紀は、心配な顔で
「来週の土日、愛華ちゃんと一緒に?」
と話しかけると、
史は、全く冷静
「うん、京都に行った時に迎えに来てもらって」
「いろいろ道案内をしてもらったから」
「僕もお返ししないとね」
「親戚筋だしさ」
由紀は思った。
「そうか・・・史にとってみれば」
「お礼と親戚かあ・・・愛華ちゃんって」
「そうなるのが、当たり前だなあ、まあ無粋で無神経な史だ、愛華ちゃんの気持なんて、さっぱりわかっていないんだ」
「でも・・・これはこれで、いい考えだ。好都合だ」
そして
「ああ、私もついていくから、しっかり道案内しなさいよ」
「モタモタするんじゃないよ」
「大切なお礼と親戚筋なんだから」
と、史に「いつもの指示命令口調」になる。
それを聞いた史は
「え?姉貴?何で?マジでついてくるの?」
と、口を尖らせる。
そうなった場合の由紀の対応は一つ。
「うるさい!アホ!何でもいいの!」
「この無神経男!」
と、史の頭をポカリ。
史は、ますます「意味不明」という文句顔になっている。




