由紀の部長昇格(1)
史の姉で、学園内では合唱部に属する由紀がカフェ・ルミエールに入って来た。
「いらっしゃいませ」
洋子が、声をかけると、キチンと頭を下げる。
さすが、姉と弟、キチンと頭を下げるところは同じようだ。
洋子は、クスッと笑うものの、由紀の顔はイマイチさえない。
「ねえ、由紀ちゃん、どうかしたの?元気ないよ」
「史君のこと?」
洋子は、怪我で負傷中の史が原因と思った。
「あ・・・史君じゃないです」
「史君は、毎日里奈ちゃんと、仲良くご登校です」
「昨日なんか、一緒に帰って来ました」
「姉の私を、ないがしろにして」
由紀は、少し笑った。
しかし、すぐに顔がさえなくなる。
「うーん・・・となると・・・部活のこと?」
洋子には、それ以外に理由が浮かばない。
由紀は勉強では成績がいいし、それが原因では、それほど悩まないだろうと思う。
となると、史ではないのだから、部活かと思った。
「あったり!さすが洋子さんだ」
やはり、洋子の「読み」通りだったらしい。
「じゃあ、聞いてもいい?」
洋子は、由紀の前に、ミルク少し多めのカフェ・オーレを置いた。
いつもハキハキ、史には「少し見習ってもらいたい程」の元気娘の由紀が、暗い顔なのは、どうにも気になる。
「うん・・・洋子さん、部活でね・・・来年の部長の選挙があって」
由紀は、口を「への字」に曲げた。
しかし、もともと童顔美人の由紀が、そんな表情になったところで、マンガにしかならない。
「うん・・・」
洋子は少し笑ってしまった。
「もーーー!洋子さん!しっかり聞いてください!」
「せっかく真面目に話しているのに!」
由紀は少し文句を言った。
しかし、話し出したことまでは、止められない。
「それで、部長選挙でね、部長になっちゃったんです」
由紀は、さすがに単刀直入。素直に事実を述べた。
「ほーーー!それはおめでとう!」
「それじゃあ、部長昇格おめでとう。パーティーしないとねえ」
洋子は、日ごろの由紀の指導力とか明るさをよくわかっている。
部長になるのも、当たり前と思うから、さっそくパーティーの話まで膨らませてしまう。
「あのねえ、洋子さん、部長って大変なんですよ」
「そんなねえ・・・パーティーなんかすると、よほどプレッシャーじゃないですか」
由紀は、ますます難しい顔になる。
「でもさ、イマイチ不安の史君は、里奈ちゃんにまかせてさ」
「やっと、由紀ちゃんの力が、発揮できるんだよ」
「それはそれで、楽しいとおもうけれどねえ」
「今までだって店で見る限り、由紀ちゃんが部長みたいな感じだったじゃない」
「人をまとめる力があると思うよ、由紀ちゃんのいう事なら、みんな聞くから」
洋子は、「難し顔」の由紀を懸命になだめる。
「それはそれでいいんだけど・・・」
「本当はね、もう一つというか、もう一人の難敵がいるんです」
由紀は、ようやく「本当の理由」を語り出すようである。




