和菓子職人奈津美と史(2)
奈津美は、少し顔を赤らめ、話し出した。
「史君と私、同じ小学校なんです、といっても私が6年生の時に史君は1年生ですけれど」
「へえ・・・それは知らなかった」
洋子は、奈津美の赤らんだ顔に少し興味を持った。
奈津美は、少し目を伏せた。
「それでね、史君は覚えていないと思うんだけど、私が学校で、イジメにあったというか、うん、言いづらいけれど・・・」
「すごい意地悪な女の子がいまして、毎日いじめられてて、先生に話ししても、その女の子の親ががPTAの役員だったので、全く取り合ってくれなくて・・・」
「だんだん意地悪な女の子のグループまで、私をいじめるようになってしまって」
「いじめって、どんないじめなの?」
洋子も、昔のことながら、奈津美が可哀そうになった。
「ああ、今から思うと大したことはないんですけど、軽く足を蹴飛ばされたり、笑っていればふざけてるで、黙っていればネクラとか、仲間ハズレにするとか、無視とか、そんな感じです」
奈津美の顔が少し沈んだ。
「それでね、すごく落ち込んで誰も遊んでくれる人がいなくて、一人で公園のベンチにいた時に」
奈津美の目に涙が浮かんだ。
「うん・・・」
洋子は奈津美の次の言葉を待つ。
「そしたら、史君が、首を傾げて歩いて来て・・・」
「お姉ちゃん、元気ないね、どうしたの?」
「心配だから、頭なでなでしてあげるなんて言って」
「恥ずかしかったけれど、私6年生で、史君1年生ですよ・・・」
「それで、もっと恥ずかしいけれど、頭なでられたら、私泣いちゃったんです」
奈津美は、涙を浮かべながら恥ずかしそうな顔になった。
「へえ・・・史君がねえ・・・」
洋子は、驚いている。
「少し泣いていたら、史君が私の手を握って」
「お母さんとおやつ食べるんだけど、お姉ちゃんも来てって、言うから」
「うん・・・トボトボと」
奈津美は、顔が真っ赤になった。
「へえ・・・」
洋子は、その言葉しか出ない。
「それで、あつかましくも史君と史君のお母さんと一緒におやつを食べまして・・・」
「干しイチジクのパウンドケーキだったかな、美味しくて今でも覚えています」
「それで、帰りに史君から、お土産までもらって・・・それが、今の木村和菓子店のおまんじゅうで・・・」
「本当に、いろいろうれしくて・・・嫌な気持ちも全部吹っ飛んじゃって」
奈津美は、うれしそうな顔になった。
「へえ・・・面白いなあ・・・学校ではその後?」
洋子は少し気になった。
「うん、史君、私を見つけると、飛んできてくれるんです、大丈夫?って」
「まあ、それが可愛くてね」
「それから・・・あのいじめっ子たちに何か言われても、史君の笑顔があればいいかなって、私元気になったんです」
「史君に会えなかったら、私、絶対登校拒否とか、事件とか起こしそうだったから」奈津美は、真顔である。
「ほんとにへえ・・・って話だねえ」
洋子は、驚いている。
「不思議なのはね、史君と遊んでいると、だんだん、他の子も寄って来るんです」
「あのいじめっ子たちも、最初は遠巻きにしていたけれど、だんだん寄って来て」
「いつの間にか、私とも仲直りです」
「だから・・・史君って私の恩人なんです」
奈津美の「理由」がようやくわかってきた。
「そうかあ、それじゃあね・・・」
「うん、時間が空いていれば、いいよ」
「史君の病院とかの送り迎えは、やってあげたらどうかな」
洋子も、これで納得した。
「それから、私ね」
奈津美は、少し笑った。
「え?何?」
洋子は次の言葉が読めない。
「史君にプロポーズされたことあるんです」
「またお姉ちゃんが泣くようなことがあったら、僕が旦那さんになって、お姉ちゃんを守るって」
奈津美は、口に手をあてて笑っている。
「あはは!いいかもねえ!でも・・・年増過ぎだよ」
「ライバルも多いよ」
「それだけは、師匠になれないなあ」
洋子も、大笑いになってしまった。
「でもねえ、史君にも決まった彼女がいたほうがいいと思いますよ」奈津美
「そうだねえ、難しいけれどねえ、落ちつくかなあ、強制も出来ないけれど」洋子
その後は、史の「彼女選定話」がかなり続いた。
史には、全く預かり知らない話ではあるけれど。




