和菓子職人奈津美と史(1)
木村和菓子店の職人の奈津美が今日から、カフェ・ルミエールで修行をすることになった。
和菓子の基本は出来ているが、洋菓子については料理学校で習った程度。
さすがにパリダロワイヨで修行、数々の賞を獲得した洋子に学ぶことは多いようで、熱心に洋菓子作りに取り組んでいる。
「うん、奈津美ちゃんは、なかなか筋がいいね、さすが木村親方の指導がいいからかな、何しろ一つ一つの作業が丁寧です」
洋子も、奈津美の仕事ぶりに満足した様子。
「はい、ありがとうございます。学ぶことが多くて、新鮮です」
奈津美も、面白くて仕方がない様子である。
「それでね、奈津美ちゃん、日曜日は史君が珈琲とか紅茶を淹れるってことなんだけど、話は聞いたと思うけれど、出てこれないからさ」
洋子は奈津美を珈琲ミルの前に呼んだ。
そして、使い方を教えている。
「はい、わかりました」
奈津美も小さなノートにメモを取り、その後は実際に挽いてみる。
「いい香りですね、これは・・・」
どうやら珈琲ミルで豆を挽くのは初めてらしい。
少し感激気味である。
「で、淹れ方は・・・」
洋子が説明をしようとすると、奈津美はさっとドリッパーと紙フィルター、サーバーをセットする、本当に動きが速い。
「あ、私、淹れてみます」
奈津美は、挽いた珈琲の粉を10gほどフィルターに入れ、少し揺すって平らにならした。
そして、珈琲の粉の面より3~4㎝の高さから、少量のお湯を全体にゆっくり注ぐ。
コーヒーの粉面がドーム状に膨らんでくる。
そのまま、20~30秒ほどそのままに蒸らす。
それから、粉の表面にまんべんなく、お湯は細く垂直に「の」の字を書いて、注いでいる。
「うん、正統派だね、習ってきたの?」
洋子は、その目を丸くした。
「はい、まず親方が珈琲が好きってこともありますが、この間史君の淹れ方を見せてもらいました」
奈津美の小さなメモ帳には、その淹れ方と日付まで書いてある。
「うん、しっかり美味しい、これなら任せられるかなあ」
「洋菓子に加えて珈琲と紅茶だと大変かな」
洋子は、珈琲を飲みながら、一応奈津美の気持ちを確認した。
「いえいえ、淹れさせてもらうだけで、感激です」
「こちらからお願いしたいくらいです」
奈津美は、にっこりと笑う。
「それでね、洋子さん」
今度は、奈津美から洋子に声をかけた。
「うん、何かな」
洋子は、奈津美の顔を見た。
「史君のリハビリとか、病院通いとか、時間が空いている時なら、私が手伝います」
「少しでも役に立ちたくて」
奈津美は、真顔である。
「え?それは時間が空いている時ならいいけれど・・・」
「そこまでする理由があるの?」
洋子は、奈津美の真顔に、「何か」を感じている。




