京都での披露宴(7)
史のピアノ伴奏、愛華のフルートソロによるモーツァルトのフルートソナタの演奏が始まった。
テンポは、事前の練習通りに、少し速めになっている。
聞いている由紀
「うん、練習よりは愛華ちゃん、音が響いている」
「何より胸をピンと張っているから、音に芯がある」
「華やかだなあ、さすがモーツァルトだ」
そう言って、なかなか史をほめることはない。
加奈子は
「史君の合わせ方かな、愛華ちゃんの呼吸を読んで、上手にリードしている」
「これじゃあ、音大から誘われるのも当たり前だよ」
「その話を蹴飛ばすんだから、もったいない」
「西洋中世史ってねえ・・・あきれる・・・」
いろいろ考えていると、演奏が終わってしまった。
愛華と史が大きな拍手を受けていると、晃が立ち上がって、司会の執事吉川に耳打ち、吉川はマスターの前に向かう。
マスターが、吉川から何かを告げられ「え?」と言う顔になっていると、今度は史と由紀が、マスターに手を振る。
そのうえ、涼子までがマスターの脇をつついている。
史は、マスターのためらいなどは見なかった。
そのまま、マイクを握って話しだした。
「さて、これから、僕と姉の由紀が子供の頃、ずっとマスターに聞かせてもらった曲を演奏します」
「トライトゥリメンバー」
「マスターのリードボーカルに、由紀と加奈子ちゃんと愛華ちゃんが合わせます」
「どうかお聴きください」
会場からは、すごい拍手。
マスターも
「仕掛けられちまった、しょうがねえなあ」
と、頭をかきながら、史の隣に歩いてきた。
そして、「全く・・・」
と言いながら、うれしそうである。
由紀がマスターに声をかけた。
「おめでとうございます」
「ずっとマスターと一緒に歌いたかったの」
「それって、子供の頃からだよ」
由紀は、そのままマスターの手を握った。
途端にマスターは照れた顔になる。
史も、うれしそうな顔をして、ピアノの前奏を弾き出した。
その史のピアノ前奏に続いて、由紀、加奈子、愛華の女性コーラスが重なった。
そして、マスターのリードボーカルが始まった。




