京都での披露宴(6)
執事吉川のアナウンスの後、史たちの演奏が始まった。
まずは加奈子のヴァイオリンと史のピアノによるバッハの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」から。
史が、加奈子の顔を見ると、加奈子の顔が引き締まった。
史が
「落ち着いてね」
とポツリと言うと、加奈子も頷く。
史は、少し遅目のテンポで前奏をはじめた。
聞いている由紀は
「ああ、ゆったりバッハにするんだ、渋すぎず、加奈子ちゃんのヴァイオリンの音って柔らかいから、それを品よく活かすんだ」
「史にしては上出来だ、ほめてあげよう」
と珍しく満足気味になっている。
愛華は
「史君の少しうつむいた顔も可愛い、一緒に座っていたい」
「でも、私もドキドキしてきた、余裕がなくなってきた」
つまり、出番が近くなっているので、緊張感が高まっているらしい。
さて、史と加奈子の演奏も、上出来で終わり、次は、メンデルスゾーンの「歌の翼に」を由紀と史で演奏する。
今度は史は、由紀に何も声をかけない。
由紀が史の顔を「え?」と見ると、由紀には何ら関心がないらしい。
そして、そのまま前奏を弾きだしてしまった。
由紀は
「一言ぐらいかけてよ!やはり史はアホだ、姉をナイガシロにする」
そう思ったけれど、今さら仕方がない、いつもの慣れた曲でもあるし、素直に声を響かせる。
聞いている加奈子は
「まあ、息があった熟練の演奏だ、安心感たっぷり、さすが姉と弟だ」
愛華は、ますます顔を赤くしている。
「上手い・・・けど・・・もう聞いている余裕なし、手のひらに汗かいている」
やはり、次の出番が不安で仕方がないようだ。
史と由紀の曲も終わり、今度は史と愛華によるモーツァルトのフルートソナタの番になった。
さて、史は今度は愛華に声をかけた。
「愛華ちゃん、練習通りにね」
「でも、どうなってもフォローするから、自由に吹いていいよ」
そこまで言って、史はニコッと笑った。
声をかけられた愛華は
「うわーー!史君、やさしい!」
「笑った顔が、超可愛い!うん!がんばる!」
とにかくうれしくなってしまった。
と、同時に、緊張感が全て消え去ってしまったのである。




