京都での披露宴(3)マスターの挨拶
マスターは執事吉川からマイクを受け取った。
そして、集まった一族の全員に深く頭を下げ、語りだした。
「まずは、新年、明けましておめでとうございます」
「それから何より、本日、このような場所に、再び招かれたこと、心より感謝申し上げます」
そこまでは、ほぼ「定番」の挨拶だった。
全員が、マスターの次の言葉に集中している。
マスターは、話を続けた。
「父が早く死に、母もご存知の通り、私が十八の時に」
「私としては、本当にショックでした」
「ここにおられる大旦那をはじめとして、一族の皆様から、本当に心温まる支援の申し出もありました」
「それについては、本当に感謝しております」
マスターは、一旦ここで深く頭を下げた。
そして、また話を続けた。
「私も、あの時点ではいろいろと考えました」
「大旦那をはじめとして、様々なご厚意に甘えるほうが無難で、安全ではないかと」
「・・・しかし・・・」
マスターはここで唇をキュッと結んだ。
「しかし、私としては、どうにもそれをしたくなかった」
「他人に甘えるだけでいいのか、一族の皆様や名前に甘えるだけでいいのか」
「本当は、何も出来ない男ではないのか」
「・・・その時に思ったんです」
「自分を試してみよう、とにかく何か全然知らない世界に飛び込んでみよう」
「誰の力にも頼らず、思いっきり自分自身の力を試してみようと」
「幸い、私は食べることも、料理をすることも好きだった」
「それもあって、料理人の道、修行をすることに決めて」
「自分でも、鬼になろう、行き着くところまで技術と味を極めよう」
「そう思って、必死に取り組みました」
「結果として、若年ながらあのホテルで大役を任され」
マスターは、ここで晃の顔を見る。
「本当に偶然でしたが、晃さんがあのホテルに学会で来られて再会、本当に励まされ」
マスターから、そんな言葉をかけられた晃は、ニコニコしている。
マスターは次に大旦那に頭を下げる。
「その後すぐに大旦那が来られて、温かい言葉をかけられ」
大旦那は、破顔一笑、本当にうれしそうだ。
「それからは、晃さんと、我がホテルにいた美智子さんとの結婚、由紀ちゃんと史君の誕生、晃さんのご一家とのお付き合い」
「大旦那も、何度もホテルに来られ、独立の際には、本当にお世話になりました」
マスターの顔が、少しずつ柔らかくなっている。




