披露宴演奏の練習(3)
史は、いろいろと考えだした。
「ジャズ、ボサノヴァ、ポップス、映画音楽風・・・」
由紀も
「マスターは横浜が長かったから、何か横浜をイメージできる曲がないかなあ」
加奈子は
「新春なので、春を感じさせる曲もいいな」
愛華は
「時々、格式張る集まりだから、難しいよね」
・・・・結局、なかなか見つからない。
それでも、史がポツリと
「ねえ、姉貴・・・マスターが昔歌ってくれた曲でさ」
「トライトゥリメンバーって覚えてる?」
由紀は、すぐに反応した。
「あ!あれ?うん!すごくいい、しっとりとしてメロディもきれいで、品もある」
曲はOKらしい。
しかし
「でも、ピアノと歌はいいけれど、ヴァイオリンとフルートは?」
どうやら編曲が必要になるとの認識になる。
加奈子は
「あ!知っている、その曲、でも編曲する時間ある?」
愛華も
「うーん・・・どうかなあ」
と不安顔になる。
史は由紀の顔をじっと見て
「ねえ、姉貴、編曲は僕がする、それでさ、ピアノと女性のボーカルアンサンブルにしよう、ヴァイオリンもフルートも使わない」
言い切ってしまった。
由紀は
「え?マジ?」
と史に聞き返すけれど
史は
「姉貴、合唱部でしょ?コンクールでも優勝だよね」
「指導ぐらいは出来るよね」
と、逆にプレッシャーをかけてくる。
由紀としては、それを言われては、どうにもならなかった。
何より史からの「挑戦状」と思った。
「よし!わかった!」
「史!さっさと編曲して!」
「加奈子ちゃん、愛華ちゃん!ビシバシしごくよ!」
「とにかく、速攻でしあげよう!」
加奈子も愛華も、「え?」というほどの言葉の強さ。
何も言い返すことができない。
その後は、史の編曲による「トライトゥリメンバー」の練習がずっと続いた。
由紀の「指導」も、厳しかったけれど、聴ける程度には仕上がった。
練習を終えた史
「ここまでやったから、後は本番だけ、なんとかなる」
加奈子は
「うん、マジ音楽だけだった、もう久しぶりに歌って疲れた」
愛華は
「ますます好きになったけれど、なかなか指導力あるなあ」
「でも、声をかける時間がなかった」
と、満足したような不満なような感じ。
既に夕方となっていたので、加奈子と愛華は、すんなりと帰った。
由紀は
「まあ、やはり史はアホで無神経でカタブツだ」
「でも、なんとか今日の所はホッとした」
胸をなでおろしている。




