披露宴演奏の練習(2)
愛華と史によるモーツァルトのフルート・ソナタは、史が言った通り、少し速めのテンポになっている。
加奈子は
「うん、速いほうが、スッキリする」
「華やかな感じが出る、これを狙ったのか、さすが史君だ」
と、史のテンポ指定に、感心している。
由紀
「そうか、愛華ちゃんも、真っ赤になっている暇はないね」
「このテンポに乗らないといけないから」
「結果オーライかな、史は何も考えていないと思うけれど」
テンポは二楽章になって、ゆっくりとなった。
史は、音を柔らかめにして、愛華の呼吸をしっかり見切って伴奏をする。
愛華も、吹きやすいのか、一楽章よりも音が響きだした。
それにつれて顔の赤さが、すっかり消えた。
加奈子も由紀も、ここでやっと安心。
加奈子
「この演奏なら大丈夫」
由紀も
「息が合ってきた、というか史が合わせているんだけど」
「史は、意外に音楽は合わせ上手だ、性格はヘンクツで難しいけれど」
ほめているのかけなしているのか、わからないけれど、由紀も音楽は安心したらしい。
三楽章になると、自然に息があった流れで、本当に流麗、典雅な演奏となった。
愛華は本当に自然にフルートを吹き鳴らすし、史も愛華の呼吸を読むことがない。
まさにフルートとピアノが一体化したような自然な音楽に仕上がったのである。
曲が終わった。
愛華は
「史君、ありがとう、吹きやすかった」
「こんなに吹きやすい伴奏ってはじめて」
本当にうれしそうに史にお礼を言う。
史は
「ああ、なんとか大丈夫そうですね」
「僕も安心しました」
「で、それでね・・・」
とまで言って、少し何かを考える様子。
由紀は、さすが姉、史に声をかける。
「ねえ、史、まだ何かあるの?演奏は問題ないよ」
加奈子も愛華も、「え?」という顔になっている。
史は、少し考えてから口を開いた。
「ねえ、あのさ、マスターの披露宴でもあるんだからさ」
「これだと、いつもの新年の集まりみたいな曲ばかり」
「愛華ちゃんが加わったから、少し変わったけれど」
由紀も史の気持がわかったようだ。
「ああ、いい曲だけど、マスターの好きな曲もってこと?」
加奈子も
「えーっと・・・何か加える?」
考えだした。
愛華は
「そうなると・・・ポップス系?」
首を傾げた。
史は
「華やかさもあって、一族の集まりだから、くだけすぎない程度に」
腕を組んで考えだした。
そんな史を、由紀は
「良かった、史は音楽しか考えていない」
「愛華ちゃんも、これでは史になかなか・・・迫れない」
少しだけホッとしている。




