披露宴(1)
マスター、涼子、そして祥子の披露宴の当日になった。
マスターは、アパートの部屋の中で、まず涼子に声をかけた。
「いろいろ、心配かけた」
「これからも頼むよ」
「俺は涼子なしでは生きていけない」
涼子は、いきなりの言葉で、顔はすぐに真っ赤になった。
「もう!突然!」
「これから出かけるっていうのに、お化粧崩れちゃう」
と言いながら、マスターの胸に顔を埋めて泣いている。
マスターは言葉を続けた。
「涼子のご両親やご親戚にも、しっかりと挨拶をするよ」
涼子も、涙声でマスターに言葉を返す。
「うん、ありがとう、父も母も感激していてね」
「私と同じで涙もろいから」
涼子は、そこで一呼吸置いた。
そしてマスターの胸から顔を離して
「いい?私がマスターに惚れたのは、マスター自身が大好きなの」
「私がマスターに押しかけて、マスターを強引に奪ったんだから」
「でも、マスターの御家柄のことは、関係ないよ」
「それに、私もマスターでないと生きていけない」
キッパリと言い切る。
マスターは、何も言わなかった。
思いっきり涼子を抱きしめた。
出発ギリギリの時間まで、強く涼子を抱きしめていた。
マスターたちの車はホテルに到着した。
ホテルのフロントに入ると、涼子の両親が待っている。
マスターの手配で、このホテルに宿泊していたのである。
マスターは小走りに進み、涼子の両親に深く頭を下げた。
「お父様、お母様、本日は本当にありがとうございます」
涼子の父が、マスターの肩を抱いた。
「いやいや、こちらこそ、涼子をこれからもよろしくお願いします」
少し涙ぐんでいる。
涼子の母からも声がかかった。
「ねえ、本当にそもそも・・・涼子が突然押しかけてしまったようで」
「それに、信じられないほど、実はご立派な御家柄で・・・」
涼子の母は、フロントに集まってきているマスターの豪華な親戚連中に少し引いている。
マスターは、少し震えている涼子の母の手を握った。
「大丈夫、全て任せてください」
涼子は、祥子を抱きながら、幸せな顔になる。
マスターたちがそんな話をしていると、ホテルの婚礼担当の係が少し緊張した顔で近づいてきた。
そして、深く頭を下げ
「マスター、そして涼子さん、本日は心よりおめでとうございます」
「ホテル一同、大恩あるお二人には、心を込めて尽くさせていただきます」
マスターも涼子も旧知らしくニコニコと頷いていると、今度は披露宴ホールの方から、大旦那と奥様が歩いてきた。
マスターと涼子は、姿勢を正している。




