マスターと由紀の横浜デート(5)
出された様々な料理を、由紀は全て美味しく食べる。
マスターは、それぞれ、確認するように頷いて食べる。
由紀は、そんなマスターが「珍しく他の人の料理を食べるから」と思い、面白く思う。
マスターも、由紀の表情を感じたのか
「基本に忠実な料理でね、手抜きをしていないから」と少し微笑む。
由紀はそこでマスターに尋ねた。
「ねえ、マスター、ホテルのレストランの料理と、こういう独立した料理店の違いってあるの?」
由紀としては、率直な疑問である。
そして、これによりマスターが何故、自分でお店を開いたのかがわかると思った。
マスターは、また顔を柔らかくして
「それはね、客層の違いだよ」
由紀に答えると、由紀が再質問。
「同じ横浜で、こんなに近いのに?客層が違うって?」
由紀は首を傾げた。
そこでマスターは柔らかい顔のまま
「つまりホテルのレストランの場合は、基本的には泊り客、そして一般のお客様になるよね、だから全ての人が料理だけを目的にホテルに宿泊しているわけではない」
「そうなるとホテルでの料理提供は、万人向けの味付けになる、あまりクセのある味付けは、馴染みのある料理であっても、食べられない人も出てくるからね」
「強い味付けを好む人もいるし、アッサリを好む人がいる」
「出来る限り、誰にでも美味しいと食べていただけるような万人向けの工夫が必要となる」
「さて、独立レストランのお客様は、そこの店を目指してくるお客様」
「したがって、独立レストランの場合のほうが、作り手の個性を発揮できるのさ」
「言い換えれば、そこのシェフの料理法や味付けで、お客様をひきつけても問題はない」
少し難しい話をマスターはしたけれど、由紀も理解したようだ。
フンフンと頷いて
「それでマスターも独立したんだ、そのほうが自由がきくからね」
「そうなると洋子さんも、そうかな」
マスターも頷いた。
「そうだね、おそらく」
「洋子さんも、カフェ・ルミエールにきて、お菓子のメニューを増やしているね」
「やりたいことが出来ていると思うよ」
そんな話が続き、食事が終わった。
史と愛華の話は全く出なかった。
マスターと由紀は御礼を言って店を出た。
由紀は、売店でクッキーを買おうと思ったけれど、その必要はなかった。
レストランから、「晃さんと美智子さんに」ということで、「お土産」で渡されたのである。
そしてマスターと由紀は、再び元町を歩き出した。




