史の柔道(6)
史のクラス全員は、柔道場に出向いた。
噂の通り、治樹が柔道場の真ん中で正座、それを野球部の良夫や女子柔道部の美佳、女子レスリング部の涼香、女子空手部のひとみたちが囲んでいる。
心配になったのか、柔道部キャプテンの野村も顔を見せている。
「おい!治樹!学校休んでゲーセンか!」
まず、柔道部キャプテンの野村が治樹に迫った。
「・・・えっと・・・あの・・・」
治樹の目には、野村や良夫、美佳、涼香、ひとみだけではない、史のクラスの生徒も見えている。
日頃の横柄な態度はどこへやら、シドロモドロになった。
「おい!何でズル休みするんだ!何か理由でもあるのか!」
今度は野球部の良夫が迫った。
「・・・いや・・・別に・・・」
治樹の目は完全に泳いでいる。
少しずつ震えてきた。
「あのさ、危険な足払いしたんだよね、というか蹴っただけでしょ!」
美佳がキツク迫る。
「何故、そんなことするの!」
ひとみも、かなりキツイ顔になった。
「おい!男だったらはっきり答えろ!バツが悪くなってズル休みしただけだろ!」
涼香は、厳しく睨んだ。
治樹は、震えてしまって全く声が出そうにもない。
今度は、柔道部で史と同じクラスの里奈が、治樹に迫った。
「要するに、治樹!史君とか史君の人気が気に入らないんでしょ?男のジェラシーなんでしょ?史君ばかり顧問が前々から褒めていたから」
「昨日だって、史君が他の生徒をポンポン投げるものだから、先生から厳しく攻めてみろって言われたのを幸いにさ!」
「ただ、思いっきり蹴っただけでしょ、完治していない足首を!」
その里奈の言葉で、治樹の顔が真っ赤になった。
どうやら図星らしい。
その身体の震えは、本当にひどくなってきた。
そんな柔道場の様子を三輪担任も柔道部の佐野顧問も聞きつけてきたらしい。
まず、柔道部顧問が治樹に声をかけた。
「おい!治樹!史君は全治四週間だそうだ」
「学園長もお前にも事情を聞くってオカンムリだ」
「それに学園休んでゲーセンだと?」
「校則違反だぞ!」
佐野顧問もかなり怒っている。
三輪担任も怒っている。
「史君はね、足にはギブス、松葉杖だよ」
「それなのに、あなたは学園さぼってゲーセン?何を考えているの!」
「史君はね、そんな治樹の足蹴りをかわせなかった自分が悪いって、すっごい悩んでいるよ」
三輪担任は、少し涙ぐんだ。
「史君のお姉さんが史君に聞いたら、全部足蹴りをかわせなかった自分が悪いからこの学園をやめたいってまで言ったらしいよ、そこまで悩んでいるの」
その言葉は、治樹だけではない、柔道場に集まった全員に動揺をもたらしている。




