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カフェ・ルミエール  作者: 舞夢
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クリスマスコンサート(8)

史は、カッチーニのアヴェ・マリアのピアノ前奏を、重くそして固めに弾き始めた。

第九で大興奮気味のホールの雰囲気が、一瞬にして引き締まる。

バッハの演奏の時と同じ、聴衆の全員が姿勢を正している。


史の前奏に続き、由紀のソプラノソロが始まった。


「きれい・・・」

「心に沁みる」

誰か少しポツッといっただけ。

史と由紀の奏でるアヴェ・マリアに全ての聴衆がひきつけられて、その後は声も咳も出さない。


曲が進むに連れて、両手を組み、目を閉じて聴き入る人が増えてきた。

オーケストラの音と、合唱の響きが重なると、涙を流す人が出てきた。

そして、座っていられない人も多くなった。

客席のあちらこちらで立ち上がり、姿勢を正し手を組み、アヴェ・マリアを聴きながら、祈っている。


また、泣き出してしまう人も多くなった。

立ち上がることもできず、泣いている人、立ち上がって両手を組みながら泣いている人も多い。


そして曲の最後の部分では、とうとう全員が立ち上がり両手を組み、祈る状態となった。


カッチーニのアヴェ・マリアが終わった。

史がピアノから離れて立ち上がり、由紀と並び、聴衆に向き合い、一緒に頭を下げた。


一瞬、間があった。


そして、地鳴りのような、ものすごい拍手がホール全体に湧き上がる。

「史・・・」

由紀は泣き出していた。


史も気づいた。

由紀の手をそっと握る。


「ブラボー!」

ホールのあちこちから、今度はボラボーの嵐になった。


史は

「すごい・・・みんな立っている」

今、気づいたようだ。


榊原からも小声で

「史君、由紀ちゃん、僕も感動した、素晴らしかった」

榊原も、史と由紀の隣に立った。

そして、三人で再びお辞儀をする。


ホールは再び、ものすごい拍手とブラボーの嵐に包まれる。

そして、また、アンコールの声がかかりだした。


史は榊原に

「それでは、よろしく」

と小声、つまり史の出番はこれで終わり、頭を下げて舞台裏に戻ろうとする。


しかし、榊原は少し笑って首を横に振る。

「史君、指揮をして欲しい」

いきなり、とんでもないことを史に言ってきた。


「え?どういうこと?」

と立ち止まる史。


由紀は

「ほら、さっさと!」

と、史の背中を押して、合唱団に戻ってしまう。


榊原も

「じゃあ、頼むよ」

と言い終えて、自分は合唱団の男性たちの中に入ってしまった。


史は

「え?マジ?」

と思ったけれど、今さら仕方がない。


再び、聴衆全体に頭を下げ、足取りもしっかりと、指揮台にのぼった。

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