史の柔道(4)
史は、担任の三輪と学園長室に入った。
既に柔道部顧問の佐野は席についている。
「おお、史君、大丈夫か?」
学園長は、史の様子が痛々しいらしい、心配そうに声をかけた。
「はい、今はギブスで固定しているので、痛みはありません」
史は、松葉杖が苦手らしい、少し苦労して椅子に座った。
「それで、これが診断書です」
「ほぼ、三週間から四週間は治癒にかかるとのことです」
担任の三輪が、診断書をテーブルの上に置いた。
「・・・どうして、こんなことになったのかね・・・佐野君」
「説明をしてくれないか、授業中の事故で、学園にも損害賠償が発生する」
「怪我人を出してしまった君の責任もあるんだ、君の指導に問題があるのではないか?少なくとも結果責任はあるぞ」
学園長の表情は厳しい。
「いや・・・それは・・・熱心な指導のあまりの事故でして・・・」
「史君については、前々から柔道のセンスは認めていまして・・・」
「新聞部などの文化部ではもったいない、若い男の子なんだから、鍛え上げようと思いまして、何回も誘ったのですが・・・」
「しかし、そこまでの怪我になるとは・・・わかりませんでした」
佐野顧問も肩を落とした。
「その、男が新聞部とか文化部に入るのが悪いような言い方と」
「史君が顧問の意に反して柔道部に入らないことが、気に入らないような言い方」
「すごく、偏った考えだと思うのだけれど」
学園長は、厳しく佐野顧問に問いただした。
「それから、佐野顧問が治樹君に厳しく攻めろって指示をしたって、聞いた生徒が何人もいますよ、それって、柔道部員が柔道部員じゃない史君にしてもいいことなんですか?」
三輪担任の顔が、怒りで真っ赤になった。
「・・・いや・・・それは、熱心な指導のあまり・・・」
「どこまで史君が柔道が出来るのか確かめたかったので、厳しくというか本気で攻めてみろとは確かに言いました」
「しかし、あんな、ひどい足払いをしろとか怪我をさせてもいいとは言っておりません・・・」
佐野顧問は、シドロモドロになってきた。
「授業が終わってからも、史君を探し回ったんだろ?」
「カフェ・ルミエールまで追いかけて」
「あまりにもやり過ぎだ、熱心の度を超えている」
学園長は、ますます厳しい顔になった。
しばらく黙っていた史が、口を開いた。
「ごめんなさい、一番悪いのは僕かもしれません」
「僕がノロマで足払いをよけられなかったからです」
「柔道部の先生も治樹君も悪くないです」
「僕は、いつも、こんなトラブルばかりで・・・」
史は、本当に肩を落として、沈み込んだ顔になっている。




