史の第九指揮と洋子の思い
さて、「超ゲンナリ」の史は、自分の演奏するバッハの協奏曲は無事に弾き終えた。
さすがに自分で選曲したこともある、とにかく流麗に弾いている。
これには、店を終えて練習を聴きに来ていた洋子、奈津美、結衣、彩はウットリ状態である。
洋子
「うーん・・・私だけに弾いてほしいなあ」
と、顔を紅くする。
奈津美は、その紅い顔が気に入らない。
「ふん!超オットリの史君がそんな簡単に弾くことない」
結衣は、フフンと笑う。
「まあ、無理さ、年齢差を考えないと」
彩はまた別のことを考えている。
「バッハの演奏が終わったら史君をこっちの席に呼ぶ、そして私の隣に座らせる」
様々、ウットリながら考えているうちに、バッハの練習が終わった。
そして、四人の思惑としては、史が客席の自分たちのところにおりてくると思っていたのだけど・・・少し様子が違う。
客席におりてきたのは、指揮者の榊原のほうだった。
そのうえ、もっと驚いたのは、史が指揮台にのぼっているのである。
「え?」
という顔で榊原の顔を見る四人に、榊原は少し笑う。
「ああ、史君は練習指揮者もやってもらうことにした」
「僕もステージだけでなくて、客席で聴く時もあるんだ」
「つまりね、指揮台で聴くのと、客席で聴くのととでは、耳に入る音が違う」
「客席のほうが、各楽器のバランスつまり音量がわかるんだ」
榊原の説明は、かなり実務的な話だった。
これには、期待していた四人も、文句は言いづらい。
そんな状態の中、史が第九交響曲を振り始めた。
榊原は各楽器のバランスを確認しているけれど、四人はまた違うようだ。
洋子
「うわーーー史君が第九を振るなんて・・・でも、上手だなあ」
奈津美
「うん・・・引き込まれる、指揮者もいいなあ」
結衣
「なんか、颯爽としている、かっこいい」
彩
「ドキドキしてきちゃった、動きが艶めかしい」
結局四人とも、顔を赤らめている。
そんな四人を見た榊原
「ああ、史君は指揮も上手だよ、リズム感も耳もいい」
「音楽の歌わせ方の基本がしっかり身についている」
「絶対に成功するし、人気も出る、本格的に勉強させたいんだけどね」
そこまで言って、難しい顔になる。
それには洋子も腕を組んでしまった。
「うーん・・・史君がやりたいのは西洋中世史かあ・・・」
「でも、それは史君じゃなくてもできるよ」
「この音楽は史君じゃないとできない」
「なんか、もったいないなあ」
洋子は、史の指揮する第九交響曲が進むにつれて、その想いが強くなっている。




