史の京都散歩(15)
史は孝のお屋敷に戻った。
かつて父晃が使っていた部屋に入り、ベッドに横になる。
そして、いろいろ考える。
「はぁ、疲れた」
「ピアノが何とかなったからいいけれど」
「お土産を買うくらいで、愛華ちゃんが一緒?」
「軽いお菓子でも買えば良かったんだけどなあ」
「断りづらかったし、あの雰囲気では」
とまで考えて、部屋の中を見回す。
「うーん・・・すっごい蔵書だなあ」:
「壁全体が本だらけ、図書館の中にベッドがあるみたい」
「古文が多いなあ、嫌いじゃないけれど」
「でも、親が古文をやっていたから、子供も古文って、それは面白くない」
「この家から出た者としては、仕方がないかなあ」
「だいたい長男が実業系で、次男が文化系か」
「それで孝叔父さんが銀行で、父さん学者」
「でも、古文はなあ・・・うーん・・・」
と、古文研究には、少しためらう。
「そうかと言って、音楽は職業にしたくないなあ」
「お金のための音楽って、好きになれない」
そんなことを考えて、今夜のパーティーで雅仁からお礼でもらった立派な封筒を思い出した。
そして、開けてみて驚いた。
「うわ!すっごい金額の旅行券!」
「ホテルのディナー招待券もある」
「こんなの使い切れないって・・・まだ学生だし」
と、驚きながら他にも入っているものがある。
「え?呉服お仕立券もある、それもすごい金額で超名店」
「僕が呉服を着るの?」
「でも、けっこうな呉服屋さんで、高いよ、こんなの」
史は、焦った。
「どうしよう、もらっちゃった、こんな高いの・・・」
「これは、父さんと母さんに相談しないと」
「ほんと、加奈子ちゃんに誘われて、孝叔父さんにお礼のついででピアノを弾いただけなのに」
「これは、もらいすぎだ」
と、オロオロしていると、スマホが鳴った。
史がスマホを取ると、いきなり姉の由紀の声。
そして由紀は怒っている。
「こら!史!」
「加奈子ちゃんから電話があって、愛華ちゃんからも電話があった!」
「何で加奈子ちゃんに、しっかり言わないの!」
「明日、愛華ちゃんとデート?」
「愛華ちゃんから、私にも電話があったよ」
「愛華ちゃんのこと、しっかり覚えていなかったの?」
「このアホ!」
「もーーー!どうして、そうやってオットリでアホなの!」
「里奈ちゃんが聞いたら泣くよ!」
・・・・・・
かなり支離滅裂な由紀の怒りである。
史としては「うーん・・・どうしてそこまで?」になっている。




