史の京都散歩(12)
史と加奈子の、パーティーでのモーツァルトの演奏は、招待客全員を魅了した。
「お食事をするのが、もったいないぐらい」
「もう、うっとりやわ」
「二人とも、息がぴったりあっていて」
「はぁ、ずっと聞いていたいな」
「天国にいるようや」
「これをプロでやったら人気出るやろな」
本当に感激する人が多いけれど、考え込む人もいる。
「なあ、晃さんのご長男やから、古文とかに進むんやろか」
「うーん・・・晃さんの後継者も必要なあ」
「これは悩むなあ・・・」
「日本文化を守ってもらう人も欲しいしな」
「なあ、あんな可愛い子がな、テレビに出て、源氏の講義をすれば見る人も多くなると思うしな」
・・・・・・
様々、演奏をしている史の今後を心配する言葉も出てきている。
そして招待客と、孝、彰子、圭子も同じような考えを持つ。
孝
「そうやなあ、わが一族としては、古文研究を続けて欲しいのやけどな」
彰子
「でもなあ、あの演奏を聴いてしまうと、そんなことも言えん」
圭子
「史君自身は、どない思ってるんやろ」
このお屋敷の主人の雅仁と良子も会話に参加してきた。
雅仁
「音楽家としての史君も見たいなあ、羽ばたかせたい」
良子
「ほんま、悩むなあ」
そんな話を聞きながら、愛華はずっと史を見つめている。
そして、史から目を離すことが全くできない。
愛華自身、そんなことは初めてである。
そして、いろいろ考えている。
「史君が、音楽の道に進むとか、古文とかは関係ない」
「私は、史君をずっと見ていたい」
「私は史君を小さい頃見て、実は覚えていた」
「でも、史君は何も覚えていなかった」
「それが悔しいけれど、もう、どうでもいい」
「今夜は、孝さんのお屋敷に泊まって、明日帰っちゃうのかな」
「寂しいなあ・・・」
「私も東京に行きたいな」
「だめかなあ、都内の大学って・・・」
そこまで考えて、父の雅仁と母の良子の顔をちらっと見る。
また、別のことを考えた。
「もしかして、史君に彼女がいたら、どないしよ・・・」
「はぁ・・・困ったなあ・・・」
「悩むなあ、加奈子ちゃん、知っとるやろか」
「本人に直接なんて無理や」
「うーん・・・」
どうやら、愛華は史に魅入られてしまったようだ。




