史の京都散歩(8)
少々の動揺はあったものの、史は大事なことを思い出した。
「今夜演奏する曲の練習」である。
何しろ、まだ楽譜も見ていない。
史は加奈子に声をかけた。
「加奈子ちゃん、練習しよう」
「楽譜が見たい」
しっかり真顔に戻っている。
加奈子は
「もう、そんな可愛い顔で真面目な顔しないで」
とクスッと笑うけれど、頷いた。
彰子
「じゃあ、一階でね」
と声をかけてくれたので、ようやく一階に降りることができた。
そして、史が一階に降りると、
孝
「ああ、準備はしてあるよ」
と、史たちを、練習場所へと案内する。
さすが立派な日本庭園を眺めながら廊下を歩く。
なかなか広い家なので、数分歩くと、少し厳しいドアがある。
孝
「洋間を改造して、防音室にした」
と、厳しいドアを開けると、約二十畳の洋間。
中にはグランドピアノ、譜面台とかがある。
史
「すっごい!スタインウェイ・・・」
と驚くけれど、そんなことよりまず楽譜を確認しなければならない。
加奈子が声をかけてきた。
「なあ、パーティーやから、モーツァルトを多くした」
確かにピアノの上には、モーツァルトの楽譜が数冊置いてある。
史は、ここでやっとホッとした。
「うん、なんとかなるかな」
「じゃあ、練習しよう」
さっそく、ピアノの前の椅子に座って、楽譜を広げる。
すると加奈子は、事前に運んであったのだろう、ヴァイオリンを取り出して、チューニングをはじめた。
そして
「懐かしいなあ、史君と合わせるなんて、幸せやん」
とニッコリ。
孝は
「ずっと聞きたかったんだ」
と腕を組む。
彰子は
「うん、楽しみで眠れなかった」
とまで、言う。
愛華は、少し顔を赤らめて、ピアノの横に立つ。
史が「え?」という顔をすると
愛華
「えへへ、譜めくりさせて」
と、ニッコリ。
史は、意外なことに少し焦るけれど、今さら仕方がない。
史
「じゃあ、はじめます」
と、モーツァルトの前奏を弾き始める。
その前奏を聞いた孝
「うーん・・・すごくいい・・・なめらかで、繊細で・・・意外に力強くて」
「これを聞いちゃうと、古文はなあ・・・」
彰子も目を丸くした。
「え?史君って、ここまで上手なの?」
「これは、悩むなあ・・・」
圭子も驚いた。
「なんか、天使様が弾いているみたい」
「古文だと、もったいないかも・・・」
そして、ため息をついている。




