史の京都散歩(7)
史は
「じゃあ、荷物を置いてきます」
と、彰子と一緒に二階へのぼる。
しかし、加奈子も愛華も結局ついてくる。
その様子を見て、孝はククッと笑ってる。
「まったく、晃と一緒、史も女難の相だ」
さて、史は、彰子にドアを開けられて、史の父、晃が使っていた部屋の中に入った。
そして史は、驚いた。
「わ!すっごい!」
「壁一面に、本・・・」
「それも、源氏の写本から解説書がものすごい量」
「へえ、かなり昔、鎌倉時代の注釈書もある!」
「古文書の勉強もできる」
「え?こっちは?」
「万葉集、古今、新古今、勅撰・・・和歌だらけ」
「へえ、白氏文集もあるしさ」
それ以外にも凄まじいほどの本が、そろっているけれど、見きれない。
とにかく、珍しく史が興奮している。
彰子は、笑いをこらえきれない。
「だから、史君、大旦那も加奈子ちゃんも言ったやん」
「東京の大学ではなくて、こっちのほうが、史君に興味ある本がたくさん手に入るってなあ」
「そりゃ、音大なら東京かもしれんけど」
「古文をするんやったら、京都にしたら?」
「ここの家に住んだらええやん」
「家賃もいらん、晃さんも美智子さんも、由紀ちゃんも安心や」
「なーーんも心配はいらんて」
「この部屋の本も自由に読めるしなあ」
ついには、京都住まいまで、勧めてくる。
史は
「うーん・・・これを見てしまうと・・・」
それでも
「でも、光一さんは?」
孝と彰子の長男、つまり史の従兄弟のことを聞く。
彰子は
「ああ、当分、ニューヨーク支店、いつ帰ってくるかわからん」
「もうね、この広いお屋敷で、寂しくてしょうがないんや」
と、少し顔を下に向ける。
そんな史に加奈子
「なあ、おいでよ」
「こっちでも、知り合いが本当は多いはず」
「大丈夫、心配はいらんて」
そこで含み笑いをして
「なあ、愛華ちゃんも、おるしな」
愛華は、そこで顔が真っ赤。
史は
「え・・・意味わからん」
少し慌てた。
いつのまにか、史も京都弁になっている。




