VS芸能スカウト(8)
マスターの言った通り、地域の自治会長の橋本と産直市の会長大石が10分後に、カフェ・ルミエールに一緒に入ってきた。
校長
「すみません、突然、わざわざ」
副校長も
「夜分になりますのに」
と両方ともていねいに深く頭を下げる。
自治会長の橋本は
「いや、校長先生、頭をあげてください」
「我々だって期待している地域のコンサートです」
「それに障害となるようなことは、取り除きたいんです」
と、校長の手を握る。
産直市会長の大石は新たな情報を持ってきた。
大石
「とにかく、あのJ芸能プロダクションの杉本ってスカウトはとんでもない野郎だぞ」
「史君の家の周りをうろついたり、それはスカウトだから仕方がないけれどな」
「近所に評判とか聞き込みをするんだ」
「あの、例の口調でな」
その言葉で、校長と副校長がわかったようだ。
嫌そうな顔になる。
マスターが大石の顔を見ると、大石は頷いた。
まだ、続きがあるようだ。
大石
「それで、聞かれた家が、話を断ると、ものすごい暴言」
「この馬鹿野郎とかさ」
「ひどいのは玄関にツバを吐いたり、塀を蹴飛ばしたり」
「畑の中に、車の中から空き缶とか飲んじまったペットボトルを投げ込むのは、日常茶飯事、タバコの吸い殻もあった」
大石は、かなり怒っている。
校長も
「それでも、警察は、確実な物的証拠とか実害がないと動かないということなんです」
マスター
「そうだね、口頭の話だけでは、絶対に動かない」
橋本自治会長も難しい顔になった。
「交通安全の旗ふりとかの、協力依頼は熱心だけど」
「地域住民が困っても、言を左右に何もしない」
大石がマスターの顔を見た。
大石
「実際、どうする?」
マスター
「ああ、悪いけれど、極力あの杉本って芸能スカウトを見張ってください」
「そして少しでも変なことをしでかしたら、事実をメモ、録音、できれば録画」
「それが集まったら、私のところへ」
と頭を深く下げる。
校長、副校長、自治会長、産直市会長も、異存はなかった。
自治会長が
「これは地域全体の話だよ、みんな協力したい」
「いい演奏会を安全に聴きたいもの」
マスターが最後に一言
「とにかく気は抜けません」
その言葉に全員の顔が引き締まった。




