無礼な客(1)
午後8時、カフェ・ルミエールに男性二人が入って来た。
見るからに酩酊、態度も横柄である。
「おい!マスター!ここで酒を飲んでやる!」
「感謝しろよ!これでもバッジが付いているんだぜ!」
どうやら二人とも議員らしい。
その声も大きく、周囲の客もうるさいのか、顔をしかめている。
「ところで、ご注文は?」
マスターは低い声で、慎重である。
「なにい?注文はだと?」
「そんなこと、しっかり見計らうってのが、お前の仕事だろ?」
「お前はそんなこともわからないのか?」
「いいか!値段も考えておけよ!」
「仮にも政務活動費でな、国民の税金でお支払いしてあげるんだ!」
「おい!国民に無駄をさせたくなければな!」
「いいか?わかるだろう!とびっきりの高い酒をな!」
「破格の値段でサービスしろよ!」
・・・・・・
マスターが一言、注文を聞いただけで、これだけの言葉が返ってくる。
「・・・ああ、あの暴言議員と・・・」
「パワハラ議員だよ・・・」
他の客たちは、本当にハラハラしだした。
「そうですか・・・」
マスターは頷いた。
そして、冷蔵庫から何かを取り出し、グラスに注ぐ。
「あなた方にはこれで十分」
マスターは、白色の飲み物を二人の議員の前に置いた。
「何だと?このわけのわからんものを!」
「超高級の白酒か?」
議員二人は、白色の飲み物に口をつけた。
そして、そのまま・・・
激怒である。
「何だと?牛乳じゃねえか!」
「おい、国会議員をなめるな!」
「このバカ野郎!」
「こんな店、すぐにつぶせるんだぜ!」
既に感情が昂ぶりおさまらない国会議員の一人は、飲みかけの牛乳をマスターの顔にぶちまけ、もう一人はグラスごと床に叩きつけた。
「・・・ふ・・・」
マスターは、そこで笑った。
そして言葉を続けた。
「今のあなた方の言動は全て、天井のビデオで撮影済み、いつでも警察にも政党本部に送りますよ、それから、マスコミの人もあちらの席にねえ・・・」
しかし、国会議員二人は、逆に切れた。
「何だと?国会議員を脅すのか!」
「おい!あのビデオを処分しろ!今すぐにだ!」
「おい!そこのマスコミ!こんなひどいことを記事にしたら、お前の社はそれでお終い!出入り禁止だ!」
「さっさとしないかーーーー!」
本当に切れまくっている。
そんな国会議員の所に大柄な男が二人立った。
凄い目で、国会議員二人を睨んだ。
「おい!国会議員さんよ、あんたは誰の税金で食っているんだい」
「ふざけんじゃねえぞ!あの牛乳はな、俺が丹精こめて育てた牛の乳だ、それを無駄にしやがって!」
「国民の善意を踏みにじるのが、国会議員なのかい!」
「俺たちを舐めるんじゃねえぞ!」
「今、見たり聞いたりしたことは、自治会でも報告する!」
「警察には、俺からも言う」
国会議員を上回る迫力である。




