命名、そしてマスターの涙
大旦那と晃が、様々名前の案を出すなか、マスターと涼子が決めたのは
「祥子」
これには大旦那も晃も感激した。
大旦那
「祥瑞をもたらす子供か、これはめでたい」
晃
「うん、さすがマスターと涼子さんだ」
マスターは
「いろいろ考えてくれてありがとう」
「その中で、この子を見ていると、この子がその名前にしてって」
涼子もうれしそうな顔。
「華やかさとめでたさと、しっかりとした感じ」
「いい名前です」
美智子は
「そんなに難しい漢字でもなく」
由紀はさっそく
「いいな、可愛い、祥子ちゃん」
と声を掛けている。
史は
「でも、美人だね、この子」
「将来楽しみ」
と、ニコニコ顔。
奥様が大旦那に
「一族の中で、正式にね」
と声をかけると、大旦那がしっかりと頷く。
そして、マスターと涼子に少し厳し目に
「いいか、子を持って、はじめて親の恩を知る」
マスターと涼子が頭を下げると
大旦那
「それと、子の恩を知る」
「可愛いという恩をね」
今度は優しい顔である。
マスターは大旦那と奥様に
「お正月に」
と頭を下げる。
大旦那と奥様が頷く。
晃もうれしそうな顔をする。
「マスター、本当にうれしい」
「みんな待っていたんだ」
「マスターの出席をね」
マスターは頭をかいている。
「ああ、格式ばかりのお家柄に文句ばかり言ってさ」
「結局、出奔して、料理人になった」
「みんな呆れていただろうなあ」
「ありがたい話だけど、恐れ多いな」
そんなマスターに大旦那は声をかける。
「そんなことはない、裸一貫であれだけの料理を作り、あれだけの名門ホテルの料理長を立派に勤め上げた」
「親族を代表する私としても、何も拒む理由はないさ」
「だいたい、お前が変な意地を張って来なかっただけだ」
奥様からも声がかかった。
「ちゃんと正式に式をあげなさい」
「涼子さんと祥子ちゃんのためにもね」
「私たちが、全部面倒を見るから」
「しっかりとお父さんとお母さんの墓参りもしないと」
その奥様の言葉に、マスターの表情が変わった。
そして、ついに泣き出してしまった。




