涼子の出産とマスターの涙
涼子は全く無事に女の子を出産した。
マスターは、ほぼ、ずっと付き添いをしている。
史の一家や里奈、そしてカフェ・ルミエールの店員から、お客様までが喜び、マスターの家には、お祝いの品があふれている。
大旦那夫妻も、うれしくてたまらないのか、待ちきれなかったようだ。
結局、マスターたちが家に戻った日に、わざわざ足を運んできた。
大旦那
「ああ、涼子さん、でかした!」
「いやーー可愛い女の子だなあ」
すでに、その大きな目をウルウルさせている。
奥様も同様
「ほんと、肌もきれいです」
「お姫様のようです」
その顔をしきりにハンカチで拭っている。
涼子も、ホッとした顔になっている。
「本当にわざわざ、ありがとうございます」
「いろいろとご心配をおかけしまして」
どうやら、妊娠期間中には様々な援助を、大旦那夫妻からいただいていたようだ。
大旦那は、またウルウルしながら
「涼子さん、そんなことは言わないでいいさ」
「涼子さんがいるから、このマスターがやっていけるんだ」
「その上、こんな宝石のような女の子を」
普段の、少し謹厳な顔はどこへやら、うれしくてたまらないようす。
奥様も
「そうですよ、このマスターには本当に心配してねえ・・・」
「何しろ、料理しか、わからないんだから」
「女心のカケラもわかっていなくて・・・」
「涼子さんがいてくれて、どれだけ安心なことか」
奥様はとうとう、涼子の手を握って泣き出してしまった。
そんな話が続くけれど、マスターはニコニコしている。
そんなマスターに大旦那が声をかけた。
「落ち着いたら京都においで」
「集まりの中で、正式に発表する」
マスターには、少し厳しげの顔をしている。
するとマスターの顔も、引き締まった。
そして
「大旦那・・・」
マスターの言葉は、そこまでだった。
今度は、マスターが泣き出してしまった。




