史のホワイトデー
一月前、つまり2月14日のバレンタインデーの日に、史は交通事故に巻き込まれた。
幸い、軽傷で済み、順調な回復を見せている。
しかし、順調ではないというか、大忙しになったのが、ホワイトデーのお返しである。
姉の由紀も本当に手伝うしかなかった。
何しろ、大きな段ボール三つ分のお返しなのである。
「ねえ、史君、買いに行っている暇もないしさ、お金も無いでしょ」
「分けて回るのも大変だねえ」
由紀は、思い余って母の美智子に相談した。
母美智子も、しばらく腕を組んでいた。
「うーん・・・こうなると・・・」
結局思案した結果、母美智子と姉の由紀も協力して、パウンドケーキを人数分焼くことになった。
「シナモンとドライフルーツをたっぷり含んだパウンドケーキ」
「チョコとナッツを含んだパウンドケーキ」の2種類。
「それに、史の手書きメッセージカードをつける」
結局、史の家のオーブンだけでは足りず、カフェ・ルミエールのオーブンも使うことになった。
マスターも涼子、そしてパテシェの洋子も、結局パウンドケーキ焼きに参加。
そこまでやって、ようやく全個数が完成。
史は、姉の由紀を手伝いとして、学園内では、パウンドケーキを台車に乗せて配り、ようやくホワイトデーのお返しが、終了した。
全ての「作業」が終わり、母美智子や姉由紀もカフェ・ルミエールに集合した。
「本当に、何から何までお世話になって・・・」
史は、感謝するしかない。
神妙に頭を下げる。
「まあ、こうするしかないですよ、何しろ量が半端じゃない」
洋子は、笑っている。
「ああ、オーブンもこれだけ使ってもらって、喜んでいるさ」
マスターもニコニコ顔である。
「美味しく焼けていました、さすが美智子さんと洋子さんです」
涼子も、時々味見したらしい。
「それでね・・・史君」
洋子が史の顔を見た。
「あ・・・はい・・・」
史は、洋子のイタズラっぽい顔が、少し不安になる。
「毎年だと大変だからさ」洋子
「それは、そうですが」史
「早く、グゥの音も言わせないような彼女見つけたらどう?」
洋子は笑っている。
「うーん・・・」
史は考え込んでしまう。
「あのさ、洋子さん」
マスターは笑い出した。
「そこまで、なるのに大騒動だね、ケーキ焼いているほうが楽だよ」
涼子も笑っている。
「そうねえ・・・この子は・・・ねえ・・・」
母美智子も、頭を抱えた。
「まあ、来年も焼くと思った方がいいね、誕生日も含めて」
姉由紀は笑い出した。
「・・・そんなこと言ってもさ・・・」
史自身、全くどうしていいのかわからない。
こうして、大騒動の「史のホワイトデー」は終了した。




