史の意思
少し困っていたような顔をしていた史は、一旦唇をキュッと締め、話しだした。
史
「じい様、ばあ様、心配かけてごめんなさい」
少し頭を下げる。
大旦那と奥様は、珍しく「じい様、ばあ様」などと言われたらしい。
ますます、涙がウルウルとなっている。
史
「京都はいつか住みたいと思っています」
「京都で勉強も、存分にしたいと思っています」
史は、大旦那と奥様の目を見て、しっかりと話す。
大旦那も奥様も、史の目を涙目ながら、しっかりと見る。
史は、言葉を続けた。
「じい様とばあ様、それと父さんと母さんの考えもよくわかります」
「僕のことを心配してくれることも、本当にうれしい」
「でも・・・」
史の目が厳しくなった。
史
「僕がここで、京都に行くのは逃げるような気がするんです」
「降り掛かった災難から逃げるようで、それはしたくない」
「この災難は乗り越えたいんです」
「場所を変えても、逃げるだけ」
「中には変な人もいるけれど、大勢の仲間がいるんです」
「幸いにもコンサートを待ち望んでいる人も多くて」
「僕は、そういう人たちを裏切りたくない」
史はここで、一呼吸を置いた。
そして
史
「いろいろと、心遣いはありがたいと思います」
「でも、僕は今の学園に通います」
言い切ってしまった。
大旦那
「うーん・・・」
考え込んでいる。
奥様も
「そう・・・うーん・・・」
難しい顔になっている。
ずっと黙っていたマスターが口を開いた。
「大旦那」
大旦那
「ん?何だ?」
マスターの顔を見た。
マスター
「男の子が、男になる」
「男の気概を持ち始めているんです」
「だから」
マスターは、そこで言葉をとめた。
大旦那もすぐにわかったようだ。
「・・・まあ、そんなところかなあ」
「史も元服か、いつまでも子供じゃないか」
「そうでなければ、邪険に扱ってきた男をかばうなんてことは、しないな」
「史が大人で、相手がガキか」
奥様は、まだ不安な様子。
「うーん・・・でもねえ・・・」
大旦那は、史の目をしっかりと見た。
「よし、史、思いっきりやれ」
「それなら、考えていることがある」
「私たちが、しっかりサポートする」
奥様は大旦那の顔を見た。
「・・・あなた・・・本当にやってくれるの?」
「うん、それならいい」
「そうしよう」
そして、史の目を見た。
「史君、まずは怪我をなおしてね」
史
「ありがとうございます」
「いろいろと心配させてしまって」
キチンと頭を下げた。
どうやら、大旦那と奥様のお怒りと心配は、少々おさまったようだ。
ホッとして大旦那のお屋敷からタクシーで帰る史にマスターがささやいた。
マスター
「学園の経営者が変わるかもしれないなあ」
史
「え?マジ?」
キョトンとした顔になっている。




