悩みこむ史(9)
史の両手首についての、病院での診断の結果は
「骨には異常がない、しかし、かなり強く踏み込まれている」だった。
史の病院へ付き添った、由紀、里奈、担任の三輪は一様にホッとしたけれど、「強く踏み込まれた」ことについては、本当に怒っている。
由紀
「絶対に許せない!」
里奈
「史君が可哀想すぎ・・・どうして黙っていたの?ずっと」
里奈は泣き出した。
三輪担任は
「里奈ちゃん、辛いのは史君だから、里奈ちゃんは泣かないで」
そう言いながら、三輪担任も涙声になっている。
その史は湿布やらサポーターで手首をがっちり固定され、とにかく不便な様子。
史
「痛いけれど、指はかろうじて動く」
「とっさのことで、どうにもならなくて」
「でも、稲葉先生に、あんなことされるなんて、思っていなかったから」
少し指を動かすけれど、呆然としている感じ。
由紀
「史!感づいていたの?稲葉顧問のイジメは?」
史
「うーん・・・言葉がキツイなあとか、作業する分量は多いと思ったけれど」
「これも努力すれば、何とかできるようになるかなあと」
「受け持った作業は責任を持たないとさ」
史からは、史らしく普通の答えがかえってくる。
里奈は、泣きながら史に怒った。
「だめだよ!史君、困ったことがあれば、言って欲しいって言ったでしょ!」
三輪担任は話題を変えた。
「まあ、今回のことで、稲葉顧問は厳しい処分になるの」
「おそらく学校には残れない」
「次の仕事もあるかどうか」
厳しい顔になった。
由紀
「つまり首ってことですか?」
由紀が尋ねると三輪担任は頷く。
「うん、本来は過失傷害罪で逮捕される筋のもの」
「それを史君が、一旦保留しているから逮捕されないだけ」
「ただ、他所に再就職を希望してもね、履歴書には前勤務先を外れた理由として、懲戒処分を書くことになる」
里奈
「そうなると?」
三輪担任
「雇用者としては懲戒処分の内容を、就職希望者に尋ねる」
「そうなると傷害行為として言うことになる」
「まあ、そういう人は雇わないのが当たりまえ」
由紀
「稲葉顧問が履歴書に懲戒処分とか、書かないで誤魔化そうとしたら?」
三輪担任
「ああ、年金とか社会保険の関係で、この学園に照会が来ます」
「その照会で、どうしても懲戒処分のことを通知することになる」
「だから、稲葉顧問のまともな再就職は難しい」
由紀は、史をキツく見た。
そして
「史!絶対に稲葉顧問のことを許しちゃだめだよ」
「史が許しても、学園全体も地域の人も許さないから」
かなり厳しい口調になっている。




