悩みこむ史(7)
稲葉顧問は、いかにも馬鹿馬鹿しいという表情で話しだした。
「おい!坂本!そもそもお前がちゃんとした記事を書けず、部長のくせに、しっかりと部員の統率が出来ていないから、こうなったんだろ?」
「それにな、結果的に史の手首を踏んづけたのは不可抗力だ」
「このノロマの史が、どういうわけか知らんが、その分を越えて顧問たる俺の前に立ちふさがるから、邪魔でしょうがない」
「だから、ドンと押したら、あっけなく足をもつれさせて倒れちまいやがった」
「その勢いで俺まで転びそうになった、いい迷惑だ」
「ああ、史の手首があったから、いいクッションになった」
「それで史が怪我?そんなこと俺が気にする必要はないだろ?」
「全ての発端は史だ、史が一番悪い」
「だから俺には何も責任がない」
結局、稲葉顧問は自らには非がないと、主張し続ける。
校長がようやく口を開いた。
「稲葉顧問の主張はそこまでか?」
本当に低い声である。
稲葉顧問
「ああ、言ったとおりですよ、何度も同じことを言わせないでください」
と、またせせら笑っている。
校長は、新聞部部員全員の顔を見た。
「君達は、稲葉顧問の主張を認めるのか?」
新聞部全員が、首を横に振る。
すると、稲葉顧問の顔に再び朱が走る。
稲葉顧問
「なんだと?お前ら!校長に嘘をつくのか!」
そう言いながら、校長に再び
「校長!こいつらと顧問たる俺のどっちを信用するんですか!」
その語調は、かなり強い。
しかし校長は稲葉顧問の問いには答えなかった。
「まず、史君を医者に」
「稲葉顧問の扱いについては、理事会協議案件とします」
すると稲葉顧問の顔に、ますます朱が入った。
「校長!何を考えているんですか!」
「これは熱心な生徒指導のうえでの単なる事故です」
「とにかく私に非は全くありません」
校長の顔が厳しくなった。
「稲葉顧問、あなたの主張は信じがたい」
「もし仮に君が主張する事故ならば、史君が怪我をした時点で、何故医者に行かせないのか、何故痛がっている史君を見ているだけなのか、それにせせら笑っているではないか、君には人の痛みがわからないのか」
「仮に事故としても、何故、至急に校長に連絡がないのか」
「職員の就業規則を知らないのか?」
「それと、特に史君と史君の家族への侮辱発言も、複数の生徒から通報があった」
「それに史君がコンサートに出演することは、地域から期待され、学園内からも期待され校長が認めたことだ、それに対して君はくだらない邪魔を無理やり仕掛けた」
「そのほうが余程の分を越えた行為、越権行為ではないのか」
「うっ」
と口ごもる稲葉顧問に、校長は更に続けた。
「少なくとも、この私は理事会で君を擁護する気持は全くない」
稲葉顧問は、がっくりと肩を落としている。




