悩みこむ史(4)
里奈が教室に戻ると、史は苦しそうな顔をしている。
里奈は、その史が心配になった。
声もかけた。
「史君、いろいろ大変だね」
少しホロリ気味になる。
史は
「え?何が?」
苦しそうな顔ながら、里奈の言葉の意味がわからない様子。
里奈は
「うん、困っていることがあったら、他の人にも相談したほうがいいよ」
「史君が、苦しんでいる顔は見たくないの」
里奈はここで懸命に涙をこらえる。
もし泣いたりして他の生徒の注目を集めれば、「事情」を説明しなくてはならない。
その「事情の秘密」が守られればいいけれど、万が一、稲葉先生の耳にそんな話をしていることが伝わった時の、史や他の生徒などへの「イビリ」がひどくなっても困る。
史は
「言っていることがわからない」
「何のこと?」
お腹が痛いのか、ずっと手をあてている。
そんな状態で夕方になった。
里奈が
「今日は、楽団の練習があるの?」
と史に聞くと
史
「うーん・・・稲葉先生から、あちこち取材頼まれてしまって・・・」
「今回のコンサートは無理だから、取材の日と一緒になったから」
「残念で申し訳ないけれど」
里奈
「それは岡村先生とか榊原先生とか、マスターには言ったの?」
史
「ああ、今日の新聞部の原稿まとめが終わったら帰りに寄っていく」
「そこで先生方とか、マスターにはしっかり言う」
里奈
「ねえ・・・それ・・・マジなの?」
「それでいいの?史君」
本当に悔しくてたまらない。
史
「そう言っても、僕は新聞部だよ」
「本業はそこだもの」
史は、そこでまた、おなかを抑えている。
とにかく本当に痛そうな顔になっている。
里奈
「私も、一緒にカフェ・ルミエールに行ってもいい?」
史が心配でならない。
史
「うーん・・・すごく仕上げる原稿が多くて」
「何時になるか、わからない」
「だから、里奈ちゃんは先に帰って」
「待たせるわけにはいかない」
と、頭を下げる。
里奈もこれでは仕方がない。
「わかった」
「でも無理はしないでね」
とだけ言い、教室を出た。
「こうなったら・・・」
里奈が向かったのは、由紀の教室。
由紀に史の話の内容を伝えた。
由紀
「里奈ちゃん、ありがとう」
由紀も里奈に話があるようだ。
「里奈ちゃん、一緒に校長先生のところに行ってくれる?」
「史君の担任の先生は、校長先生が呼んでくれるって」
由紀と里奈は、まっすぐに校長室に向かって歩きだした。




