悩みこむ史(1)
史の顔が朝から暗い。
朝ごはんを食べるのも辛そうである。
母美智子も姉の由紀も、気になっている。
美智子
「熱でもあるの?風邪?」
由紀
「里奈ちゃんと喧嘩でもしたの?」
と聞くけれど、史は首を横に振る。
美智子
「じゃあ、何なの?」
由紀
「言わないとわからないって!」
と聞き出そうとするけれど
史
「母さんとか姉貴には関係ない話だから」
と答えようとしない。
それでも、何とか食べ終えてから、薬箱から胃薬を取り出している。
美智子
「あの子、悩むと黙り込むタイプだからなあ」
由紀
「家の中では問題ないし、里奈ちゃんとも仲がいいし、良すぎるくらいだし」
「オーケストラかなあ・・・でも、史と榊原先生とか内田先生と、胃が痛くなるほどのストレスにはならないな」
美智子
「そうだねえ、好きなように弾いているだけだしね」
由紀
「何だろう・・・いったい・・・」
美智子も由紀も首を傾げるけれど、原因がわからない。
それでも「行ってきます」で、二人して玄関を出ると、里奈が家に向かってくるのが見えた。
由紀は里奈に声をかける。
「里奈ちゃん、ちょっと」
史は「え?」との顔になるけれど、由紀は史を押しのけて里奈と並んで歩く。
由紀
「ねえ、まさかと思うけれど、史と何かあったの?」
里奈
「いや・・・昨日の夜もお話したけれど、かなり暗くなっています」
由紀
「良かった、史のアホと喧嘩でもしたのかと思った」
「でも、暗いの、朝から、胃薬飲んでいたし」
里奈
「え・・・マジですか・・・うーん・・・」
由紀
「史のアホは、悩むと黙り込むの、昔から」
「原因がサッパリわからないの」
里奈は、少し考えた。
「あ・・・そう言えば・・・もしかすると・・・」
里奈は何か気づいたようだ。
史は、由紀と里奈から、少し遅れて歩く。
やはり胃が痛いのか、おなかをおさえて歩いている。




