秋の演奏会に向けて(2)
史は少しの間、頭を抱えていたけれど、やはり引くことはできないと感じた。
そして
「わかりました、弾きます」
と答えた。
その史の承諾に、大先生三人が、ホッとする。
史は、言葉を続けた。
「そうなるとピアノ協奏曲の曲によって、序曲とメインも変わりますね」
さっきよりは冷静な顔になっている。
榊原
「ドイツ・オーストリア系で組みたいなあ」
岡村
「うん、そうだねえ・・・シューベルトかな」
内田
「ロシア系でもブラームスでも、地下のホールでは、少し小さいね、千人は入らないとなあ」
史
「そうなると、無難なのはモーツァルトで組むとか」
・・・・そんな状態でなかなか、まとまらない。
四人がカフェ・ルミエールのテーブルでそんな話をしていると、昼間の時間帯にしては珍しく、マスターが入ってきた。
そして由紀も一緒である。
由紀は、そのまま史の隣にすわり
「ねえ、第九やりましょう!」
「私たち合唱部も、一度思いっきり歌ってみたくて!」
榊原
「ほーー・・・・」
岡村
「これは、面白いなあ」
内田
「いい話だねえ、やろうよ」
マスターからも、声がかかった。
「私も橋本自治会長から、お願いされていましてね」
「地域の人も一緒に歌いたいそうです」
少し笑っている。
ただ、史は
「第九だど、大きなホールが必要、地下ホールじゃ無理」
と、浮かない様子。
マスター
「ああ、史君、決まれば区の文化センターホールを取ってくれるらしい」
「あそこも音響がいいし、人も入るからね」
「さすが自治会長だなあ」
また、笑っている。
史は腕を組んだ。
「うーん・・・となると、皇帝はやったしなあ・・・」
「第九にあうコンチェルトは・・・」
それでも少しは「やる気」が出ているようだ。




